大勢の犠牲者を出す銃乱射事件が後を絶たない米国。現場に出動する警官は命がけの行動を迫られる。そうした事態に対応するため、警察による「殺人ロボット」の使用を認める方針がカリフォルニア州サンフランシスコ市議会で承認され、物議を醸した。その後反対の声が強まってこの承認は撤回されたが、かつてSFの中の話だった殺人ロボットは、現実の兵器として実用化の段階に入っている。
サンフランシスコ市警は、例えば銃乱射や立てこもりなどの現場に爆弾を搭載したロボットを送り込み、遠隔操作で犯人を殺害するといった使い方を想定していた。テキサス州ダラスでは6年前、実際に警察がロボットを使って容疑者を殺害したことがあった。
報道によると、サンフランシスコ市議会は11月下旬、警察が殺傷力を持つロボットを配備することを賛成多数で承認した。こうしたロボットは「一般人や警察官の人命が失われる危険が差し迫っていて、別の手段を使っても容疑者を制圧できない場合」に使用すると規定。既に犠牲者が出ていて、そのままではさらに死者が増える危険が大きいといった、極めて特殊な状況での使用に限られると説明していた。
市議会の承認を受けてサンフランシスコ市警が発表した声明では「ロボットの使用は最後の手段だ。われわれは、考えられないような集団暴力がますます一般的になる時代に生きている。われわれの街でそうした悲劇が起きた場合に、命を救える手段が必要だ」と強調した。
しかしこのニュースが伝えられると、全米から反対の声が巻き起こった。自由人権協会(ACLU)や電子フロンティア財団(EFF)など50あまりの団体が方針の撤回を求め、サンフランシスコ市役所前には市民が集まって反対運動を展開した。
サンフランシスコ市議会で12月6日に再度行った採決では、一転して反対票が賛成票を逆転。ロボットによる殺傷力の行使に言及した部分は、警察の装備に関する改正案から削除された。ロボットに反対した議員は「常識が打ち勝った」とコメントし、EFFは「われわれはサンフランシスコの殺人ロボットを殺した」と歓迎している。
市警の殺人ロボット使用案は、軍事兵器を警察が使うことに関する改定案に盛り込まれていた。米軍は既に殺傷力を持つドローンを中東などで使用している他、銃の搭載もできるロボットのテストを行っているとされる。
2016年にダラスで起きた事件では、警官5人が射殺され、その後も容疑者に近づくことができなかったため、ロボットに爆弾を仕込んで爆発させ、容疑者を殺害した。米国で警察がロボットを使って容疑者を殺害したのはこれが初めてだった。
地元紙Mission Localによると、サンフランシスコ市警は、この時ダラス警察が使ったのと同じモデルのロボット「F5A」を保有している。現在保有するロボットはこれを含めて17台で、うち12台は使用できる状態にある。ただし人を殺傷する目的で使われたことはなく、一般的には爆弾処理や、危険すぎて警官が近づけない場所の調査などに使われているという。
殺傷力を持つロボットの使用について、ダラスの事件後にACLUは、警察によって悪用される恐れや、遠隔操作で正確な状況が把握できず、標的を誤る可能性があると指摘。ハッキングのようなセキュリティ上の懸念もあるとして警鐘を鳴らしていた。
サンフランシスコの殺人ロボットに関する論議はいったんは決着したが、議会から委員会に差し戻されて、今後再び浮上する可能性もある。
こうしたロボットの使用はカリフォルニア州オークランドの警察も検討していたという。こちらも当面は見送られたが、警察はいずれ、この手段を追求したい意向だとMission Localは伝えている。
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