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「DNA」でつぼやコップなどを作れるツール ナノ精度で陶芸のように加工可能 米国チームが発表Innovative Tech

» 2023年01月12日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米デューク大学、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校、米アリゾナ州立大学、米ラットガーズ大学、アメリカ大気研究センターに所属する研究者らが発表した論文「Automated design of 3D DNA origami with non-rasterized 2D curvature」は、DNAの配列をナノメートルの精度で曲げたり折ったりして、複雑な3次元の物体を作るソフトウェアツールを提案した研究報告である。

 DNAを加工して、ひょうたんやつぼ、コップのような湾曲した曲面を持つナノスケールの立体物を作り出す。

細長いDNAをグルグル巻いて積み重ねて立体物を作る

 DNAは全ての生物が持っており、脳や手、髪の毛、臓器など全てのタンパク質を作る指令が書かれた設計図である。DNAの主要は塩基であり、塩基はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類で構成されており、これらの配列の違いで指令の内容が変わってくる。DNAは直径2ナノメートルの細いひも状の物質で、二重らせんになっているのが特徴である。

 この鎖のように連なった配列を情報が詰まった設計図ではなく、3次元の物体を作る材料にしたのがこの手法である。これまでにもDNA配列を3次元の物体を作る材料として使用するアイデアは存在していたが、単純な立方体、ピラミッド、サッカーボールなど、表面が粗くブロック状の形状にとどまっていた。

 今回提案するソフトウェアツール「DNAxiS」では、単純なブロック形状だけでなく、丸みを帯びた局面を持つ形状をDNA配列から作り出すことができるようになった。円柱や円すい、つぼやひょうたん、ボールやキノコ型といった湾曲した面を持つ3次元物体を構築できる。

 DNA配列は、細胞核1個に何十億文字と書かれたひものように長いのが特徴である。まず、このひものように長い配列を折ったり曲げたりして同心円状に巻いてリングのようにして形を作っていく。これだけではバラバラになるため、別の短い配列でホチキス留めするように留めて固定する。細長い粘土をぐるぐる回して積み重ねて鍋や皿などを作るような要領である。

 これによって、つぼのような中が空洞な湾曲した立体物が作れる。大きさは100ナノメートル(0.0001ミリメートル)以下くらいの形状になる。

 ソフトウェアツールでは、作りたい形状を設計することで、その通りに長い配列がどのように曲がって積み重なるかを計算し、形状を固定する短い配列をどの位置に置くかをアルゴリズムで決定する。

 DNAを湾曲させていくのは難しく立体物が潰れないようにより強固にするため、さらに層を増やして補強する手法も取り入れている。

DNAxiSの設計プロセスの概要
DNAナノ構造の配列原理
ボールや球体のデザイン
補強戦略の特徴

Source and Image Credits: Daniel Fu, Raghu Pradeep Narayanan, Abhay Prasad, Fei Zhang, Dewight Williams, John S. Schreck, Hao Yan, and John Reif. Automated design of 3D DNA origami with non-rasterized 2D curvature. SCIENCE ADVANCES 23 Dec 2022 Vol 8, Issue 51 DOI: 10.1126/sciadv.ade4455



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