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IP伝送からファイルベースまで1本化する「Creators' Cloud」 ソニーのプロフェッショナル戦略とは小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(1/3 ページ)

» 2023年01月13日 11時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 放送業界において、映像のデジタル化は、すでに1980年代半ばには実用化されていた。解像度はまだSDの時代だが、デジタルコンポーネント(D1)、デジタルコンポジット(D2)、デジタルベータカムといったカムコーダ、テープデッキ製品を矢継ぎ早に製品化し、世界の放送を一気にデジタル化していったのが、ソニーの手腕である。

 アナログ時代には小型スイッチャーしか作っていなかったが、デジタル時代の幕開けとともに大型スイッチャーも数多くリリースした。放送業界には、カメラ、レンズ、スイッチャー、ストレージなど、一部分に特化した企業が多い。それだけ高い専門性が問われる業界なわけだが、ソニーは頭からシッポまでのほとんどを自社製品でカバーできる、数少ない企業となった。

 ただ1980年代から始まったテープベースのデジタル化は、ワークフローとしてはアナログ時代の方法論をデジタルで置き換えただけといえる。2000年を過ぎてコンピュータによるオンライン映像編集が広く普及してからは、編集よりも後ろの映像制作はファイルベース、すなわちノンリニア・ワークフローとなったが、放送局がまだメディア納品にこだわったため、ファイルで完成したものをテープなりディスクに起こすといった作業が必要であった。放送局がオンラインによるファイル納品を受け付けるようになったのは2017年頃と、意外に最近である。

 一方で、映像のリアルタイムIP伝送が放送業界で注目され始めたのは、2014年頃であった。それ以前から国際標準規格のSMPTE 2022 1〜4が策定されてきたが、これはMPEG-2 TS伝送であり、破壊圧縮型である。テレビ放送は、地上波デジタル放送ではMPEG-2を使っているが、それより前の制作・運用の映像伝送に関しては、非圧縮映像を扱う。記録は圧縮しても、伝送時に非圧縮(ベースバンド)まで戻すというのが基本である。

 そんなことから、2014年にSMPTE 2022 5〜6で非圧縮ベースバンドのSDIストリームが策定されたのは、画期的だったわけである。とはいえ当時の主力IP機器、要するに価格がこなれているのは10GBASE-T機器で、それ以上の通信機器もあったがかなり高価であった。IP化のメリットの1つはコストカットであり、高い映像機器から高い通信機器に乗り換えても、面倒が増えるだけでメリットがない。

 従って当時のIP映像伝送とは、1ケーブルにつき1映像を一方通行で流すという、SDI伝送の代わりとしての考え方であった。またSMPTE 2022 5〜6は、基幹システム同士を遠距離でつなぐといった用途を想定しており、カメラからスイッチャーまでといった近距離を結ぶには使い勝手が悪かった。

 そこでソニーは、国際規格とは別のIP伝送プロトコル「ネットワーク・メディア・インターフェース(NMI)」を開発、実装した。特徴としては、

  1. IP上で同期信号が送れる
  2. ビデオ・オーディオ・メタデータが別パケットになっており、IPのままで分離できる
  3. IPのままでフレーム単位のスイッチングができる

 といった特徴があった。逆に言えば、上記のことがSMPTE 2022 5〜6ではできないわけである。SDIでのベースバンド伝送に近い使い勝手を、IPでも提供しようとしたものだった。

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