ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >

光を99.98%以上吸収する「至高の暗黒シート」を産総研が開発 レーザーポインター光も消える

» 2023年01月18日 18時14分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 光を99.98%以上吸収する暗黒シートを産業技術総合研究所(産総研)が開発、1月18日に発表した。これは2019年に開発した「究極の暗黒シート」をさらに進化させたもので、光の吸収率をさらにアップした。「触れる素材の中では、文句なく世界一」(開発を行った産総研の雨宮邦招氏)だという。

左の一般的な黒い樹脂のパネルは天井の明かりが映り込んで白くなってしまっているが、究極の暗黒シート(右)や今回の至高の暗黒シート(中央)は黒い

 前回のシートは光を99.5%吸収(反射率0.5%)していたが、今回は反射率を0.02%まで下げた。「その名も至高の暗黒シート。レーザーポインターを当てても消えて見える。これが99.98%吸収の世界」(雨宮氏)

吸収の仕組みは?

 基本的な仕組みは、入ってきた光を内部で反射させる「光閉じ込め構造」にある。表面に微細な山形の凹凸を作り、光を反射させることでギラつき(鏡面反射)を防いだ。これが4年前の究極の暗黒シートの構造だ。

高エネルギーイオンビーム照射で樹脂に微細な円柱状の穴を開け、エッチング処理で円錐形に加工する。究極の暗黒シートは、こうして作った型から転写して作っていた。至高の暗黒シートでは、型から二重に転写して作成することで生産性を向上させている(画像:CCライセンス 表示 4.0 国際

 紫外線から可視光、赤外線というあらゆる光を吸収するだけでなく、触れられることがこれまでの黒色シートとの違いだ。カーボンナノチューブを使った塗料などでは、同レベルの吸収率を実現したものもあるが、非常にもろいものだった。

 しかし究極の暗黒シートにも、素材内部から生じる「くすみ(散乱反射)」が生じてしまっていた。素材を黒くするために使ったカーボンブラックは、凝集してミクロなサイズのダマができやすい。このダマが光の波長以上のサイズになると、光が散乱し、くすみの原因になった。

くすみ(散乱反射)が生じる原因は、カーボンブラックの粒子が凝縮するためだ。一般的な塗料にも使われるカシューオイルを使うことでくすみを防いだ(画像:CCライセンス 表示 4.0 国際

 今回の至高の暗黒シートでは、カーボンブラック混練樹脂の代わりに、漆に似たカシューオイル黒色樹脂を採用。粒子が小さく、光の散乱が起こりにくくすることで、くすみを減らすことに成功した。

 レーザー光の反射は、ほとんどがくすみによるものだ。今回、くすみをほぼなくすことでレーザー光さえ見えない吸収率の実現につながった。

人間の目にとって最も感度が高い緑色のレーザーを当てたところ。究極の暗黒シートはレーザー光が見えるが、至高の暗黒シートはほとんど見えない

眼で見て違いが分かる

 吸収率99.5%から99.98%へ。数字だけ見ると誤差のようにも感じるが、人間の目は黒さの違いに敏感だ。カメラ越しではその違いは明確には分からないが、実物を見ると違いは明白に分かる。

 一般的な黒色シートは、鏡面反射が起きて周りのものが映り込む艶(ツヤ)がある。究極の暗黒シートは、一見したところ最も黒いように感じるが、実はツヤ消し塗装のようなくすみ(散乱反射)が起きて、白っぽく見える。至高の暗黒シートは色の濃い、ヌメっとした黒となっている。

 利用用途としては「カメラの筒の内面に貼って反射を抑える、VRヘッドセットの画面以外を黒くすることで没入感を高める」(雨宮氏)などを想定している。

 究極的な用途は、人間の目が直接黒を感じるシーンでの活用だ。現在の素材をそのまま利用できるものではないが、雨宮氏は次のように理想を語る。「ここまでの黒を追い求めることの価値は、人間の目に区別がつく点にある。黒の微妙な階調のレベルを下げ、4桁のコントラスト比を提供できる。印刷物やディスプレイ画面の黒の表現に利用し、肉眼で見た景色を再現できるような応用ができたらいい」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.