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サッカーのPKでどこに蹴るかを予測するAI 東大が技術開発Innovative Tech

» 2023年01月20日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 東京大学情報理工学系研究科と東京大学先端科学技術研究センターに所属する研究者らが発表した論文「サッカーでのキック方向予測におけるニューラルネットワークを用いた判断根拠の教示システム」は、サッカーのPK(ペナルティーキック)において、蹴る方向を予測する機械学習モデルの開発した。

 また、システムによって特定した動作の特徴を判断根拠として教示することがゴールキーパーのトレーニングとして有効であるのかを調査した研究報告を発表した。

PKを蹴るプレイヤーの撮影方法

 サッカーのPKでは蹴られたボールがゴールに到達するまでの時間が速いため、ゴールキーパーは相手プレイヤーの蹴る前の動作を見て予測し、通常蹴るとほぼ同時に左右どちらかに飛びゴール死守を目指す。ここで重要なのは、相手プレーヤーの動作から事前にどの方向に蹴るかをある程度予測することである。

 だが、このような予測技術は鍛錬を積んだ熟練のゴールキーパーのみ獲得できる。今回の研究では、PKにおけるキック判定が行える機械学習モデルを開発し、このモデルによって導き出した動作の特徴がゴールキーパーにとって鍛錬のプロセスに有効であるかを検証した。

 具体的には、まず撮影した映像から得たキッカーの関節座標を使用して、ニューラルネットワークによりキック方向の判断根拠の抽出を行う。次に抽出した判断根拠を実験参加者が自身が使用する判断根拠として妥当であると感じるかや、教示によって戦略の変更や予測精度に変化が生じるかを調査する。

提案システムの概要

 屋外でGoProカメラを用い、1人のプレイヤーが蹴る動作を292回撮影した。その映像からOpenPoseを用いて関節座標24点を検出、ボールの検出にハフ変換を用いた。ボールと足が接触したフレームとその直前79フレームの計80フレームを機械学習モデルの入力とした。

ボールを蹴る際の一連の動作の連続写真

 学習したモデルは、フレーム毎の関節座標群を判断根拠の可視化として出力する。関節位置は赤円で表現し、赤円の半径が大きいほど予測への寄与度が大きいことを示す。判断根拠の可視化にはGrad-CAMを使用した。

判断根拠の可視化例

 提案システムによって可視化した判断根拠が人間の予測に関する学習に有効であるかを検証するための実験を行った。

 実験では、判断根拠を提示しないグループ、可視化した判断根拠を提示するグループ、可視化した判断根拠に加えその解釈方法に関する教示文を提示するグループの3つに分けて学習前後の変化を比較した。

 ここでいう教示文とは、例えば「軸足(左足)を踏み込む直前の上半身の重心移動が重要な動きで、この動きは軸足を踏み込む直前に左腕や頭部の赤円が大きくなることで表現されている」といったものである。

 この教示文は、Grad-CAMによって特に寄与が大きいと判断された特徴に基づいて作成したもので、参加者に可視化した判断根拠の言語的な解釈を与える目的がある。一部の参加者グループは事前にこのような説明文を読むことができる。

実験構成

 男女48人の参加者で実験を実施した結果、判断根拠と教示文ありのグループでのみ学習後の方が有意に予測の正解率が高くなった。

 判断根拠を提示した2つのグループのアンケートでは、「AIは左腕を重要視していたが、確かに足だけではなく左腕も見た方が確信をもって解答できたように思う」「踏み込み足の膝の赤丸は確かにと思った」というような、判断根拠が妥当だと感じたという内容のコメントが複数見られた。

 短期的な学習による評価にもかかわらず一定の効果が見られ、可視化した判断根拠が参加者にとって妥当だと感じられるものであり、判断根拠の言語的な教示が練習に有効であることを示唆した。

 また今回は1人のプレイヤーのみのデータを使用し左右の蹴る方向しか判別していないため、プレイヤーごとの傾向の違いや上下を加えた評価、視線などの細かな所作などを含めた評価も期待できる。

Source and Image Credits: 本多 拓実, 齊藤 寛人, 脇坂 崇平, 稲見 昌彦, サッカーでのキック方向予測におけるニューラルネットワークを用いた判断根拠の教示システム, 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 2022, 27 巻, 4 号, p. 393-402, 公開日 2022/12/28, Online ISSN 2423-9593, Print ISSN 1344-011X, https://doi.org/10.18974/tvrsj.27.4_393, https://www.jstage.jst.go.jp/article/tvrsj/27/4/27_393/_article/-char/ja



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