そんな中でも、Bill Oneの特徴は大企業向けで強いポジションを築いたことだ。なぜ他社とは違う強みを発揮できたのか?
請求書業務にはいくつかの特徴がある。
1つは数字を扱うものであり、誤りが許されない点だ。Bill Oneでは、Sansanの名刺データ化で培ったノウハウを応用。東京近郊にオペレーションセンターを設け、OCRだけでなく人が目視でデータ化を行っている。
「遠隔地ならば家賃や人件費は安いが、何かあったときにすぐに対応できることを重視した。Sansanがオペレータを直接雇用し、セキュリティとスピードと精度をすべて両立させるには、遠隔地ではPDCAがなかなか回らない」(Bill One Unitプロダクトマーケティングマネジャーの柘植朋美氏)
2つ目はスケーラビリティだ。通常、請求書は月末で締めて月初に発送する。そのため、月頭に数が増加し、月末には減るという波がある。しかし、大企業では月次決算を行っているため、受け取った請求書は数日ですべて処理しなくてはならない。ピークに合わせてリソースを用意しなくてはならないという難しさがある。
「Bill Oneは月次決算を加速するというキャッチコピーを掲げている。遅れがあってはならない。ここに耐え得る環境を作っていくために、リソースを投下している」(大西氏)。オペレータのリソースは一部名刺を扱うSansanと共用しており、そこでうまく波を吸収している形だ。
3つ目はサービス導入後、顧客がうまく運用プロセスを変更できるよう、カスタマーサクセスに力を入れている点だ。請求書は複数の部署の複数の業務に関連するため、単にSaaSを導入しただけでは完了しない。
例えば、これまでは請求書を受け取ったら申請書を書いて印刷し、クリップで留めて、印を付いて上司に回すというフローを、デジタルに即した形に変更しなくてはいけない。支払いは稟議とひも付いているため、ワークフローとどう連携するかの設計も必要だ。顧客に対しては、Bill Oneのオペレーションセンター宛に請求書の送付先を変更するよう依頼しなくてはならない。
もともと大企業向けにSansanを導入してきた同社は、「売って終わり」ではなく、カスタマーサクセスを重視してきた。これがBill One導入でも経験値やチームといった形で生きた。
こうした、オペレーションセンターの運営や、急速な拡大に対応できる体制、そしてカスタマーサクセスのためのチームは、大企業への導入には必須。しかし一朝一夕に用意できるものではない。Bill Oneが大企業向けにフォーカスし、急速に成長している背景には、Sansanでなければ持っていなかったノウハウやリソースをうまく活用した点があった。
今後は国内だけでなく海外での展開にも注力する。
21年にはシンガポールに拠点を設け、22年にはマレーシアの顧客にもサービス提供を開始した。そして今年1月にはタイ・バンコクオフィスも開設しBill Oneの提供を始めている。
「タイも日本同様、業務で紙が多い。タイ政府もデジタル化を推進しており、日本の環境と近いので価値を発揮しやすい」(大西氏)
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