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問われるメタバースの“倫理観” 「子供向け広告ゲーム」や「人種の偏り」など白黒つけられない案件も表面化ウィズコロナ時代のテクノロジー(2/2 ページ)

» 2023年02月01日 10時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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人種的な偏りを見せるメタバース

 もう一つ、興味深い指摘を紹介しておこう。ブロックチェーンと暗号通貨の専門家で、Web3とメタバースに関するコンサルティングも行うメラヴ・オゼール博士が、Nasdaqの公式サイトに「メタバースにおける倫理の価値(The Value Implications of Ethics in The Metaverse)」と題された記事を寄稿。次のように主張している。

メラヴ・オゼール博士

 「メタバースでは、創作の自由が制限されないため、誰でも好きなアバターを使って自分のアイデンティティーを構築できる。しかし、全てのアバターが同じように求められているわけではない。調査によると、肌の色が黒く、女性のアバターはユーザーからの需要が少なく、メタバースにおける人種や性別の表現について懸念がある。これは特定の人々のアクセス不足とも関係している可能性がある」(メラヴ・オゼール博士)

 つまり今メタバースにアクセスできる人々の多くは、先進国に住み、経済的に余裕がある人物であるため、人種や性別に偏りが生じている可能性があるというわけだ。それが過度に定着してしまうと、今後ユーザー(現実の人々)の人種や性別の多様性が広がっても、それを排除するような文化が生まれてしまうかもしれない。

 そんなの心配し過ぎだろう、と思われるかもしれないが、既にこの「メタバースと人種」という議論は各所で見られるようになっている。そして前述のようにアバターの見た目や、ユーザーの偏りに関する懸念だけでなく「現在のメタバース系サービスの多くが白人男性中心のチームによって開発されており、彼らの無意識の偏見がメタバース空間に反映されているのではないか」という指摘もある。

 黒人向けメディア企業である米Blavityのジェフ・ネルソンCTOは、CNBCの取材に対し、「歴史的に被害や虐待を受けてきた人々や、心の片隅に秘密を抱えて生きていかなければならない人々がテーブルについていない場合、彼らを守るような形でプラットフォームを構築することはできない」と話した。

 さらに「他者に危害を加えようとする人々が利用でき、かつ、それを大規模に行うことができるプラットフォームが構築される」と警告している。

 もちろんそれを是正するために、女性や有色人種の開発者やユーザーをいきなり増やすことができるかというと、それも難しい話だろう。即効性のある特効薬は無いと認識し、倫理的な問題は常に起こり得ると心に留めた上で、サービスの設計や開発、利用を進めていくしかない。

 ここで取り上げたのはメタバースの事例だが、同じような「確定していない倫理的問題」は、他の先端的なデジタル技術でも発生しつつある。有名なのはAI倫理の領域で、各国や各企業が独自の「AI倫理観」を掲げてアプローチを模索している状態だ。

 ウィズコロナ時代は、さらに多くの先端技術が普及すると考えられる。従ってこうした倫理を巡る問題にも並行して取り組むことを、企業や政府、自治体は余儀なくされるだろう。

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