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ARコンタクトレンズを3Dプリンタで作成 運転中の道案内で性能実証 韓国の研究者らが開発Innovative Tech

» 2023年03月08日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2

 韓国電気研究院(KERI)と蔚山科学技術大学校(UNIST)に所属する研究者らが発表した論文「Meniscus-Guided Micro-Printing of Prussian Blue for Smart Electrochromic Display」は、3Dプリンタを用いてスマートコンタクトレンズが作成できる技術を提案した研究報告である。試作したスマートコンタクトレンズで、車を走行中に、GPS座標を受信したデータを基にリアルタイムに道順を表示することに成功した。

車を運転中にスマートコンタクトレンズから見える風景と道順(右矢印)を表示している様子

 スマートコンタクトレンズでARを実現する場合、低電力で駆動できるエレクトロクロミック(EC)ディスプレイが適しており、またレンズの材料としては、複数の色状態(青、白、緑)や色間のコントラストや遷移が速い「プルシャンブルー」が有力視されている。

 既存の方法では、電気めっき(素材の表面に金属の薄い皮膜を電気で形成する手法)で、基板上の膜状に塗布してプルシャンブルーのECディスプレイが作成されている。しかし、この方法では微細なパターンを構築することが困難であるため、提示できるデジタル情報(文字、数字、画像など)に限界があった。

 この研究では、電圧をかけずに3Dプリンタでレンズディスプレイに微細パターンを印刷する技術を提案する。これによって生産コストを大幅に削減し、微細なパターンを印刷したスマートコンタクトレンズの作成が可能となる。

 ノズルを正確に動かすことで、プルシャンブルーの結晶化を連続的に行い、平面だけでなく曲面にも微細なパターンを形成できる。この技術は、AR用スマートコンタクトレンズディスプレイに応用可能な7.2マイクロメートルという非常に微細なものであり、色も連続的で均一であることが特徴だ。

 実験では、スマートコンタクトレンズにナビゲーション機能を持たせたプルシャンブルーのECディスプレイを試作した。車の運転のナビゲーションを想定し、運転中にスマートコンタクトレンズにGPS座標をリアルタイムに受信して目的地までの道順を表示した。右折や左折、直進などを矢印で着用者に表示することができ、有用性を実証した。

試作したスマートコンタクトレンズで道順をリアルタイム表示する概略図

Source and Image Credits: Je Hyeong Kim, Seobin Park, Jinhyuck Ahn, Jaeyeon Pyo, Hayeol Kim, Namhun Kim, Im Doo Jung, Seung Kwon Seol. Meniscus-Guided Micro-Printing of Prussian Blue for Smart Electrochromic Display.



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