このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
米MIT(Massachusetts Institute of Technology)と米ミシガン大学に所属する研究者らが発表した論文「Augmenting Augmented Reality with Non-Line-of-Sight Perception」は、段ボール箱や大量の物に隠れたアイテムの場所を特定し、教えてくれるARヘッドセットを提案した研究報告である。
倉庫内を歩き回るだけで指定したアイテムをARで表示してくれるため、ARヘッドセットを着用したユーザーは、表示された情報をもとにその位置まで行き効率よく目的のアイテムを発見することができる。
小売業者が在庫管理や検品作業などをする場合、その多くでUHF帯のRFID技術を採用している。この技術は、各商品に組み込まれたRFIDタグを離れた場所からRFIDリーダーによって一括でスキャンできる無線通信技術である。その範囲にあるRFIDタグの情報を全て取得でき、またダンボール箱やプラスチック容器、木製の仕切りなどに隠れていても取得できるのが利点だ。
今回は、このUHF帯のRFID技術を内蔵したARヘッドセット「X-AR」を提案する。X-ARは自動的に環境内から目的のアイテムの位置を特定し、ユーザーを目的のアイテムへ誘導し、アイテムを手に取ったかどうかを確認する。
ARヘッドセットにRFID技術を統合するために、ヘッドセットに適合する超軽量なアンテナを設計した。既存のARヘッドセットのバイザー形状に合わせた独自のアンテナ設計により、ユーザーの視界やセンサーを遮ることなく統合できる。
システムでは、まずARヘッドセットのカメラからの視覚情報を用いて環境中の自己位置特定を行う。次に、ユーザーが部屋の中を移動するたびに、さまざまな位置からアンテナでRFIDの測定値を計測し、その測定値を合成する。
ヘッドセットの自己追跡機能による視覚データを利用して、環境マップを構築し、その環境下での位置を特定する。それぞれの場所にRFIDタグがある確率を計算し、RFIDタグの付いたアイテムを高精度で位置特定する。
最後に、ユーザーがRFIDタグの付いた商品を手に取ったかどうかを確認するタスクを行う。倉庫で間違った商品をピッキングして出荷してしまうようなミスを避けるために重要なタスクだ。
ヘッドセットの位置特定やRFIDタグの動きを計測し、ヘッドセットのハンドトラッキング機能を活用して、ユーザーの手にあるアイテムを特定することでタスクを実行する。
プロトタイプでは、既存のARヘッドセット(Microsoft Hololens 2)にバイザーに沿ったアンテナを貼り付けて実装した。Unityを通して、アイテムの位置とラベルの表示、ターゲットアイテムへの誘導、検証結果の表示を行う。
実験では、棚に段ボール箱やプラスチックの箱を並べ、その中にRFIDタグを付けたアイテムを入れて探すテストを行い性能を評価した。結果、RFIDタグが取り付けられたアイテムを平均9.8cmの精度で特定できると分かった。
またユーザーが正しいアイテムを手に取ったかどうかは、95%以上の精度で認識できると分かった。正しいアイテムが入った箱を手に取った場合でも、91%以上の精度で認識した。
Source and Image Credits: Tara Boroushaki, Maisy Lam, Laura Dodds, Aline Eid, and Fadel Adib. Augmenting Augmented Reality with Non-Line-of-Sight Perception.
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