ユーザベースが提供する経済情報プラットフォーム「SPEEDA」。NTTグループやソニーグループなど2000社超(3月28日時点)が導入するクラウドサービスだ。3月には任意の企業の情報を閲覧しやすくする「ダッシュボード」をリリースするなど、機能追加も続いている。
しかし、SPEEDAは2020年第2四半期から21年第2四半期にかけて、解約率の上昇に悩まされていたという。原因は利用者層の多様化とコロナ禍だ。“ダブルパンチ”の結果、一時は1%だった解約率は1.3%まで上昇した。
しかしカスタマーサクセス部門のうち、大手企業以外を手掛けるチームが対応した結果、22年第3四半期には0.8%まで下げられたという。解約率を下げたカスタマーサクセスの取り組みについて、チームを率いた中尾太郎さん(SPEEDA Japan Domain Customer Success Team)が、3月27日開催のオンラインイベント「解約率改善後の一手 トップランナーの見据えるCS戦略」で語った。
SPEEDAの解約率が高まったのは、当初のターゲットだった証券企業やコンサルティング企業だけでなく、事業会社にも利用が広がったからだ。裾野が広がり、カスタマーサクセスの手法も変化したが、なかなか追い付けずサービスが安定して定着しなかったという。
「今までのやり方で十分に使ってもらえるものと思っていた。しかし顧客の属性が広がると、それに合わせてわれわれ側が進化していけない課題が現場にあった」(中尾さん)
もう1つの理由はコロナ禍だ。経費削減のあおりを受け、ユーザー企業間で定着していないツールの契約解除が進んだ結果、急激に解約率が上がったという。
そこで対応に当たったのが、中尾さんが率いるチームだ。抱えていた問題から、同チームでは当時2つの方針を立てて対応することにしたという。1つ目は「より顧客との接点を増やすこと」、2つ目は「より顧客に合わせた形でサービスに関する提案を進めること」だ。
ただ、この方針を実践するには課題もあった。まず、当時は現在よりチームの規模が小さく、いかにカスタマーサクセスの生産性を上げるかが問題だった。もう1つは、Slackやメール、Salesforceなどに散らばる顧客の利用状況やデータを集約できておらず、分析が進んでいなかった点だ。
そこで中尾さんのチームでは、外部のツールを導入して一連の課題解決を試みた。導入したのは、SalesforceやGoogle Analyticsから集めた顧客情報の一元管理・分析が可能なカスタマーサクセス向けクラウドサービス「Gainsight」だ。類似のサービスは他にもあるが、カスタマイズ性が高く、自社の状況に合わせて調整できる点を評価して採用したという。
Gainsightは契約情報や、ログイン回数やログイン時間といった利用データを一元管理したり、ユーザーの利用度合いを継続的に追いかけたりする用途で活用。追いかけている数値が一定値を下回った場合、社内にSlackで通知。カスタマーサクセスによるユーザー支援の必要性があると伝えるような使い方をしているという
これにより、顧客の変化を検知しやすくなったと中尾さん。変化があった顧客と接触する機会を増やし、改めてコミュニケーションしてみると、対象の組織・部署の目標が変わっていることも多かったという。そこで、顧客の変化に合わせてSPEEDAの新しい使い方を提案し、解約率を下げられたと分析している。「顧客の変化をいかに抑えに行けるかが効いたかなと思っている」(中尾さん)
一方で、一連の取り組みには課題もあった。カスタマイズ性を基準にツールを導入したために、Gainsightを使いこなせる人が限られてしまった点だ。中尾さんのチームでは当初、メンバー全員がGainsightを使っているわけではなく「管理権限を持っている1人だけがスーパーに使いこなしている状態だった」(中尾さん)という。
しかし、管理権限を持つ人が退職。その後なかなかツールを活用できない時期が続いた。現在はGainsightの提供元に支援を頼み、基礎的な使い方からサポートしてもらうことで、改善傾向にあるという。
顧客との触れ方を改め、解約率改善を実現したSPEEDAのカスタマーサクセスチーム。今後はGainsightで見ていく指標をさらに調整していきたいという。「プロダクト提供の幅が広がると、カスタマーサクセスがやることも増える。ユーザーが便利だと感じることを示す指標も変わると思うので、改めてヘルススコア(指標)を設計していきたい」(中尾さん)
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