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「PayPay改悪」に補助線を引く 利用者デメリットを上回る“収益改善効果”とは(1/2 ページ)

» 2023年05月04日 16時00分 公開

 「PayPay改悪」が話題になっている。これまでできていた「(PayPayカードを除く)他社カードを利用できなくなる」ということで、今回の施策が「改悪」であることは間違いないのだが、もう少しだけ内容を掘り下げてみたい。

PayPayが発表したお知らせ

他社カードを排除する背景

 今回の施策についてPayPayにその意図や影響を聞いたところ、共通回答として次のコメントが返ってきた。基本的にはPayPayやソフトバンクのグループ内連携を重視し、PayPay子会社であるPayPayカードを利用した「あと払い」を推奨するとのスタンスだ。

それぞれについて社内で協議し、総合的に検討した結果です。PayPayカードとの連携を強化しており、「PayPayあと払い」をご利用いただければ、残高チャージ不要で、PayPayポイントもより多く付与され、PayPayで当月に利用した金額を翌月にまとめて支払えます(PayPay広報)

 PayPayが利用可能なクレジットカードを絞る理由は2点ある。1つは「手数料」、もう1つは「決済機能のシンプル化」だ。

 キャッシュレス決済としてPayPayのみが利用できる店舗が増えていることから、PayPayにクレジットカードをひも付けて支払うケースが存在する。この場合、カード発行会社(イシュア)に支払う手数料はPayPayが支払う形になるため、加盟店から手数料を徴収できなければ決済ごとに赤字となってしまう。

 これが以前、「店頭でのMPM決済での1.98%の手数料徴収」を同社が発表した背景だ。このタイミングでPayPayから離脱した加盟店は存在したものの、実際のところは同社から把握する範囲で「影響は思ったほどではなかった」ということで現在に至っている。

PayPayの決済手数料は1.98%から。他のクレカよりも低い水準にある

 カード決済では必ず手数料が発生するため、これを排除することはPayPayの収益改善につながる。なぜ「PayPayカード」だけが特例かといえば、PayPayカードでの収益はそのまま(PayPayカードの100%)親会社であるPayPayにとってのメリットになるからだ。

小売業界に多い自社カード優遇策

 日本の小売の世界ではPayPayカードに限らず、こうした自社カード優遇策が少なからず存在する。付与ポイント優遇が一番分かりやすい例だが、利用者の目には映らない方法で優遇するケースとしては、自社の所有する不動産テナントに入る条件として、自社カードの取り扱い必須化と「特別に高い手数料」を提示し、自社カードの利用で利益を誘導するといったものがある。

 手数料のルールそのものが複雑で秘匿性が高いため分かりにくいが、一般利用者には認知されにくい場所でつねに縄張り争いや熾烈な交渉が行われていることは知っておいていいかもしれない。

 PayPayの場合、他社カードの排除というよりは、どちらかといえば「カードをひも付けてコード決済を使わせる」という行為自体を止めたいのかもしれないが、PayPayの「あと払い」機能として提供されているPayPayカードとの連携を特例として認めることで、前述のように自社への還元にもなる。グループ戦略の方向性としては正しいといえる。

 「特定カードのみ優遇する」のは独占禁止法などの観点からどうなのかという指摘もある。本来であればクレジットカードの発行元を指定した排除は国際ブランド(MastercardやVisaなど)のルールに抵触する可能性はあるが、このあたりの事前確認は行っていると考えられ、今回は特に問題はないとの判断に至ったのだろう。

 というのも、もともと日本では加盟店が特定のカード発行会社と契約を結んで手数料を引き下げる「オンアス(on-us)」形式の取引が盛んであり、カードブランドではなくカード発行会社で取り扱いの有無が決定されることがある(例えば、開始後すぐに撤退を発表した7payなどが該当する)。業界の商習慣としては不問とされているのだろう。

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