このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
イスラエルのネゲヴ・ベン・グリオン大学とワイツマン科学研究所に所属する研究者らが発表した論文「Lamphone: Real-Time Passive Sound Recovery from Light Bulb Vibrations」は、デスクライトの電球から音を復元するサイドチャネル攻撃を提案した研究報告である。
オフィスや家で一般的に使用されているデスクライトの電球や卓上ランプの電球から、その部屋で発せられる音をリアルタイムに復元する攻撃だ。このような電球は、会話によって発生した音波が電球の表面に当たったときに自然に発生する気圧の変動によって振動(ミリ単位の振動)する。攻撃者は、電球(振動板として利用)に向けた電気光学センサーによって、この電球表面の気圧の変動を捉えて音声を復元する。
「Lamphone」と呼ぶこの攻撃は、次の主要コンポーネントで構成される。まず望遠鏡、この機器は遠くから電球に視野を合わせるために使われる。次に電気光学センサー、このセンサーは望遠鏡に取り付けられ、光を電流に変換するフォトダイオードで構成する。フォトダイオードに光子が吸収されることで電流が発生する。
次に音響復元システム、光信号を入力として音声信号と光学信号を分離することで音響信号を出力するシステムである。盗聴者は、電気光学センサーから電気信号をデジタル信号に変換するADCを使用してサンプリングし、ノートPC上で動作する音響復元アルゴリズムを用いてデータを処理する。
盗聴のシナリオは次のようになる。標的の部屋で行われる会話によって音が発生し、電球の表面の気圧が変動して電球が振動する。盗聴者は、望遠鏡で振動する電球に向けた電気光学センサーにより、電球の振動に起因する光強度の時間変化を捉える。電気光学センサーのアナログ出力の変化をADCでサンプリングし、デジタル光信号に変換する。この光信号を音響復元アルゴリズムにより音響信号へと変換する。
Lamphoneの性能を広範な実験により評価した結果、35mの距離から卓上のデスクライトを介して、Web会議の音圧レベルの音声を良好な明瞭度で復元することができると分かった。
Source and Image Credits: Ben Nassi, Yaron Pirutin, Raz Swissa, Adi Shamir, Yuval Elovici, and Boris Zadov. Lamphone: Passive Sound Recovery from a Desk Lamp’s Light Bulb Vibrations.
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