このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
東京大学梅谷研究室とイスラエルのライマン大学、オーストリア科学技術研究所に所属する研究者らが発表した論文「Stealth Shaper: Reflectivity Optimization as Surface Stylization」は、元の形状を保持しつつ表面の再帰性反射を最適化することで物体をステルスデザインに変形するフレームワークを提案した研究報告である。
ステルスデザインとは、戦闘機や戦艦などでよく見られる、形状の再帰性反射を最小限に抑えることでレーダーからの検知を避けるためのデザイン手法であり、シャープな折り目を多く持つ特徴的な「幾何的スタイル」で知られる。
しかし、こうした反射特性に配慮した設計は、多くの応用があるにもかかわらず、専門知識と試行錯誤を必要とするため、自動化された手法やカジュアルな3Dモデリングを行う際の障害となっている。
最近の研究では、光輸送シミュレーションを微分可能にする手法が提案され、勾配降下法を使用して逆問題を効率的に解決することが可能になった。これらの手法は、画像から正確な3Dモデルを再構築することに成功しているが、直接勾配を使用して形状を更新すると、しばしば大きなゆがみが生じるため、元の形状を保ちながら機能的な形状を探索することには適していない。
この研究では、反射特性の最適化と形状の保持を両立しながら、入力形状を変形させるためのフレームワークを提案する。この手法は、表面法線に対する勾配ベースの反射率最適化と、ARAPベースの頂点復元を繰り返すことで入力形状の反射率を最適化する。また、適応的なエッジの細分化を行い、ステルス性などの特定の反射特性にとって重要な鋭い折り目を導入する。
その結果、ユーザーは元の形状に近い近似的な変形の範囲内で形状を最適化でき、全体的なジオメトリやメッシュの品質、テクスチャなどの表面特性を保持できる。
提案手法を評価するため、実際にこのフレームワークで計算した形状を樹脂プリンタで3Dプリントし、光沢のある黒スプレーで塗装して試作品を作った。試作品の反射率を測定した結果、形状を保ちながら再帰性反射を最小限に抑えられると分かった。
さらに、今回の手法は、他の反射特性の設計にも応用可能である。例えば、建築物の壁面を最適化することによって、道路に照らされる太陽光を制御するという課題に取り組める。建物の形状を変化させることで、反射光を1点に集めたり、線上に集めたり、反射量を低減させたりができ、目標とする反射量や反射位置を実現できる。
Source and Image Credits: Kenji Tojo, Ariel Shamir, Bernd Bickel, and Nobuyuki Umetani. Stealth Shaper: Reflectivity Optimization as Surface Stylization.
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