このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
スウェーデンのリンショーピング大学とスウェーデン王立工科大学に所属する研究者らが発表した論文「Electrical current modulation in wood electrochemical transistor」は、木材から動作するトランジスタが作れることを実証した研究報告である。加工した木材を組み立てて作ったトランジスタは、オン・オフの動作を連続的に機能させたという。
現在のトランジスタはシリコンなどの半導体によって構築されており、スイッチング作用と電流電圧の増幅作用を担っている。数十億個のトランジスタを1つのコンピュータチップに搭載し、スマートフォンやPCなどのさまざまな電子機器に使われている、なくてはならない存在だ。
今回研究者らは、木材でトランジスタが作れないかと考えた。さまざまな種類の木を試した結果、強度や透過性、低密度を兼ね備えたバルサ材が最もニーズに合っていることを発見した。
そのままではトランジスタにならないため、まずバルサ材の小片を化学薬品に浸してリグニンを除去し、多孔質にする。空いた細孔に「PEDOT:PSS」と呼ばれる導電性ポリマーを充填する。このように加工した木片3本の木材(平らで長い木材2本と細長い木材1本)を十字になるように組み立て、空洞に電解質ゲルを充填することで完成させる。
組み立てたトランジスタに2.5ボルトの電流を流して実験したところ、電流が遮断されることを確認できた。電流を止めるのに約1秒、再び流すのに約5秒かかるなど、現在使われているものに比べて遅いことは自明だが、木材でトランジスタが作れることを実証した。
Source and Image Credits: Van Chinh Tran, Gabriella G. Mastantuoni, Marzieh Zabihipour, Lengwan Li, Lars Berglund, Magnus Berggren, Qi Zhou, and Isak Engquist. Electrical current modulation in wood electrochemical transistor
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