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レーザーで木を焦がして作る「炭の電子回路」 お茶大などが開発Innovative Tech

» 2022年02月28日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 お茶の水女子大学と東京工科大学、ヤフー、東京大学による研究チームが開発した「CircWood: Laser Printed Circuit Boards and Sensors for Affordable DIY Woodworking」は、レーザー加工機で木材にレーザーを照射し、一部を炭にすることで木材表面に直接電子回路を作成する手法だ。炭化部分は、一般的なプリント基板(PCB)の配線と同様に電気が流れる配線として機能する。

(a)炭の部分をタッチすると照明の明るさや色の調整ができる、(b)炭の部分をスライドするとエアコンの温度調整ができる

 既存の類似手法では、フェムト秒(fs)レーザー加工機によるラスタスキャン方式(主に彫刻に用いられる方式)のレーザーを用いてグラフェンを生成し、これを利用した電子回路を作成していた。

 しかし、fsレーザー加工機の価格は1台につき1000万円程度であり、ラスタスキャン方式では作業時間も長くなるため、一般ユーザーによる回路の作成が困難であった。今回は低価格で入手可能なCW(Continuous wave)レーザー加工機によるベクタスキャン方式(主に切断に用いられる方式)のレーザーを用いるため、回路作成に必要なコストと時間を低減でき、一般ユーザーがDIY感覚で炭による回路を作成できるようなった。

 一般的なベクタスキャニングによるレーザー切断を使用すると、木は焼けて切断されてしまう。木を切断せずに焦がして炭にするには、適度な温度の熱を繰り返し与える必要がある。

 研究チームはレーザー加工機のステージを下げ焦点をぼかす方法を用いた。また、レーザー加工機のパワーを通常の切断時よりも低く、照射スピードを高速に設定し何度も照射(8〜15回)する方法を採用した。

 これにより、木を切断せず炭化させることができるようになった。この方法を用いることで、ラスタスキャン方式のfsレーザーを用いる既存の類似手法と比べて、回路の作成時間を1/600に短縮することができた。

(a)配線の設計パターン例、(b)設計パターン通りに木板にレーザーを照射し、炭化加工を行う

 電子回路の他、タッチセンサーや荷重センサー、回転角センサーなど、さまざまなセンサーも実装できた。これらのセンサーや回路は、DIYの木工でよく使われる金属製のネジやくぎを使って、一般的なPCBやマイコンなどの電子部品と簡単に接続できる。

(a)穴を開けた炭化部分に、ネジ(くぎ)とワッシャーを接続、(b)炭化部分とマイコンを搭載したPCBを接続

 応用例として、卓上ライトやエアコンなどの家電を制御する壁掛けボード、長時間の静的な着座を検知する椅子、スマートスピーカーの音量調整が可能なダイヤル式コントローラー、開けるとLEDが点灯する木箱などの試作が行われている。

(a)長時間の静的な着座を検知するとPCアプリケーションによる通知を行い、ユーザーに姿勢の変化を促す椅子、(b)木製のダイヤルを回すと、スマートスピーカーの音量を調節できる

Source and Image Credits: Ayaka Ishii, Kunihiro Kato, Kaori Ikematsu, Yoshihiro Kawahara, and Itiro Siio. 2022. CircWood: Laser Printed Circuit Boards and Sensors for Affordable DIY Woodworking. In Sixteenth International Conference on Tangible, Embedded, and Embodied Interaction (TEI ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 11, 1-11. DOI:https://doi.org/10.1145/3490149.3501317



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