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粘菌100万体の振る舞いを個別計算、ラット脳細胞で機械学習──ライゾマ真鍋氏が見せた「AIの少し先の未来」(1/4 ページ)

» 2023年07月01日 10時00分 公開
[林信行ITmedia]

 2022年の夏以降、世の中はAIアート作品の話題でもちきりだ。そんな中、AIブーム以前からAIを活用した作品も手掛けてきた真鍋大度氏の個展「EXPERIMENT」が4月から5月にかけて開催されていた。頭の中に浮かんだイメージを映像化した作品や、ラットの脳細胞をコンピュータ代わりに使う作品など、AIよりもさらに先の未来を予見させる作品ばかりだとして話題になった。

 作品作りには高性能なコンピュータや光無線通信などの技術が必要だったが、2022年に設立されたソフトバンク先端技術研究所(以下、ソフトバンクR&D)がこうした技術を提供。まさに「技術の粋(すい)」が感じられる展覧会となった。そこで展示があった“AIの少し先の未来”を、ここでは詳しく紹介したい。


 真鍋氏はクリエイティブ集団、Rhizomatiks(ライゾマティクス)の共同設立者で、個人でもメディアアーティスト、プログラマー、デザイナー、映像作家、DJ、VJとして多彩な活躍をする人物。

 Perfumeのライブ演出を手掛けていることで有名だが、それだけでなく「リオデジャネイロオリンピック」閉会式のAR演出、天皇陛下の即位を祝う「国民祭典」の照明演出なども手掛けてきた。

 評価は日本だけに留まらず、2014年には米AppleがMac誕生30周年を記念したスペシャルサイト「Thirty Years of Mac」で、同社が世界から選んだ11人のキーパーソンの1人に選出。その後、2018年にAppleの広告「Behind the Mac」に登場し、真鍋氏の写った巨大ビルボード広告が東京渋谷の交差点を含む世界数箇所に貼り出された。

 2021年には、日本を代表するキュレーターで、当時、東京都現代美術館の館長だった長谷川祐子氏が自身が担当する同館最後の展覧会のアーティストとして「Rhizomatiks」を選出。「ライゾマティクス_マルティプレックス」が開催されたことも記憶に新しい(長谷川祐子氏は金沢21世紀美術館第4代目館長を現任)。

 そんな真鍋氏の個展「EXPERIMENT」が開かれたのは山梨県北杜市にある清春芸術村。建築家、ギュスターヴ・エッフェル氏が1900年のパリ万国博覧会のために作ったパビリオン「ラ・リューシュ」のレプリカがシンボルで、レプリカを作ったことをパリ市に感謝され、本物のエッフェル塔の階段の一部が飾られているすごい場所だ。

安藤忠雄氏が作った、自然光だけで展示を行う「光の美術館」

 白樺派の作品を集めた清春白樺美術館(谷口吉生氏の設計)、建築家藤森照信氏のツリーハウスの茶室、世界的アーティスト杉本博司氏が作った世界で唯一の宿泊施設「和心」(通常は非公開)など広大な敷地にさまざまな展示会場がある。

 真鍋氏の個展が開かれたのは安藤忠雄氏が作った、自然光だけで展示を行う「光の美術館」という建物だ。

 今回展示があった4点は、真鍋氏が常に続けているいくつかの実験の最新のスナップショットを形にしたもの。いずれもディスプレイを使った展示なので、「映像作品」と見過ごしてしまう人も多いかもしれない。しかし、それが何の映像なのかを知ると驚かされる。

100万以上の粘菌細胞を個別シミュレーション 鑑賞者の動きに反応

EXPERIMENT01: Telephysarumence。ディスプレイ上でうごめく100万個近い粘菌細胞。これらは1つ1つの動きが個別にシミュレーションされている。真鍋自身は、最終的には遠隔地にある生きた粘菌細胞とのインタラクションする作品を目指していると言い、今回の作品はその途中過程を示したものといえる
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