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粘菌100万体の振る舞いを個別計算、ラット脳細胞で機械学習──ライゾマ真鍋氏が見せた「AIの少し先の未来」(2/4 ページ)

» 2023年07月01日 10時00分 公開
[林信行ITmedia]

 最初の作品は「EXPERIMENT01: Telephysarumence」。「Tele-」は遠隔の、「physarum」は単細胞生物である粘菌を指す言葉。アメーバのように動き回り、キノコのように形を作り胞子を出す不思議な生物、粘菌の動きをシミュレーションした作品だ。画面上には100万以上の粘菌細胞の群が描き出されていて不思議な模様を描き出しており、鑑賞者が近づいたり話しかけたりすると、それに反応して動く。

 見ているとディスプレイが粘菌だけが住まう惑星で、巨大生物である鑑賞者が来襲し粘菌たちがパニックを起こしているようにも見る。ただ、その逃げ惑う様子が映像としてみても美しい。

 これに似た点で表された群のシミュレーションは、これまでにも見たことがあるという人が多いかもしれない。だが、そうしたシミュレーションの多くは群全体の動きをシミュレーションしていたはずだ。それに対して真鍋の作品では、100万近い粘菌細胞の1つ1つの振る舞いを個別に計算しているという。さらに動いているのは、集団が自己組織化し回路を形成しながら動き、事前に予想するのが困難な独特な振る舞いをする粘菌だ。

 普通のPCではおよそ処理しきれない。そこでソフトバンクのデータセンターの高性能なサーバ上で計算を行い、その結果を低遅延のソフトバンクのネットワークで返しているという。

 それにしても真鍋氏はなぜ、群でシミュレーションをすれば良いものを、個々の動きをシミュレートするなんていう面倒で負荷のかかることをしたのか。実はそこにこそ、この展覧会に、そして真鍋のこれまでの創作に通底したテーマを感じさせる。

 世の中の多くのデジタル作品は画面の中で完結した世界だが、真鍋氏の作品はそれだけで終わらせず、必ずしもプログラムした通りには動かないリアルとの絡みがある。例えばこれまで作ってきたドローンやロボット、AR映像のパフォーマンス作品も、それだけでは終わらず人間のダンサーだったり、レールを転がるボールだったり、必ずしも予定通りの動きをしない対象と絡めた作品に仕上げてきた。

作品の表示だけでなく、「自然光だけで照明が一切ない」という美術館の特性で、天候次第で見え方も大きく変わる

 そもそも、今回展示が行われた「光の美術館」も天井に開いた窓からの自然光だけで照明が一切ない美術館、つまり天候によって大きく見え方が変わる展覧会場となっている。機械の計算で単純に繰り返されるだけの予定調和ではなく、そうした予定不調和の中にこそ本当の面白さがあるというのが真鍋氏の考えだ。

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