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“メンヘラ配信者育成ゲーム”が全世界で100万本売れるまで 関係者が販売データを赤裸々公開CEDEC 2023(1/3 ページ)

» 2023年08月29日 17時54分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 ゲーム開発を手掛けるワイソーシリアス(東京都港区)が2022年1月に発売したPC/Nintendo Switch向けアドベンチャーゲーム「NEEDY GIRL OVERDOSE」。「配信者」「インターネット」「承認欲求」「メンヘラ」などアンダーグラウンドかつインモラルなテーマを扱った作品で、ライターのにゃるらさんが企画・シナリオを手掛けたことで注目を浴びた。

 売り上げは世界累計で120万本超(23年7月時点)。大手に比べて小規模なレーベルの作品ながら、100万本越えの大台を突破した。その背景には、日本だけでなく世界を意識した販売戦略があったという。

photo 講演の様子

 パシフィコ横浜で8月23日から25日にかけて開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2023」では、同作の販売やマーケティングを支援したリュウズオフィス(東京都品川区)の小沼竜太代表取締役が登壇。販売データを赤裸々に公開し、ゲームの販売戦略を解説した。

カギは「中国市場への注目」と「独自セール」

 NEEDY GIRL OVERDOSEは、最強のネット配信者を目指す女の子との生活を描くアドベンチャーゲーム。プレイヤーは彼氏のような存在として配信者活動を支援したり、彼女とコミュニケーションを取ったりすることになる。しかし、対応を間違えると女の子はすぐ気を病んでしまうので、SNSで愚痴を吐かせたり、向精神薬・市販薬をオーバードーズ(過剰摂取)させたりしてメンタルを上手に管理しなければならない。

NEEDY GIRL OVERDOSEのスクリーンショット(Steamから引用)

 同作が売り上げを伸ばせた理由は、中国市場への注目と、セールの活用だ。前者については、発表から発売直後までのユーザーの反応を基に、中国語圏に商機があると判断したという。

 リュウズオフィスが中国市場に注目したきっかけの一つが「ウィッシュリスト」だ。ウィッシュリストとは、PCゲーム販売プラットフォーム「Steam」にある“欲しいゲームリスト”機能のこと。ユーザーは気になるゲームや安売りのタイミングで買いたいゲームをまとめておける。一方で、ゲームの提供者側も「どれだけウィッシュリストに入れられているか」を把握でき、販売戦略の参考にできる。

 NEEDY GIRL OVERDOSEは当初、PC版のみをSteamで提供しており、注目度を図る指標の一つとしてウィッシュリスト入りした数を見ていた。初発表から発売前日までにリスト入りした数は、日本が2万647件、中国が1万2663件、米国が7754件と、中国が日本に次いで2番目だった。しかし発売翌日には中国が日本を抜き、1カ月後には日本の2倍以上(14万件近く)まで伸びたという。

photo 発表から発売前日までにウィッシュリスト入りした本数
photo ウィッシュリスト入りした本数の推移

 さらに、主題歌「INTERNET OVERDOSE」が中国の動画配信サイト「bilibili」で注目を浴びたことも、中国市場を意識するきっかけになったと小沼代表。7月時点でbilibiliでの再生回数は860万回を超えており、YouTubeを上回っている。

photo 主題歌「INTERNET OVERDOSE」

 小沼代表によれば当初は「ウィッシュリストについては中国も大きいが、日本を上回る数字ではなかった。日本のインターネット文化を扱う作品なこともあり、日本が主戦場になると考えていた」という。しかし、発売後にその前提が裏返ったことから、リュウズオフィスは中国向けのプロモーションを強化。ゲームの情報を配信する生配信を実施した他、INTERNET OVERDOSEの中国語版歌詞を公開するなどした。

 結果、7月27日時点での売り上げ本数は中国が61万6279本、日本が13万1936本、米国が11万3911本、韓国が4万5187本、その他が31万622本と中国がトップに。割合でいえば、半数以上を中国で売り上げたことになる。

photo NEEDY GIRL OVERDOSEの地域別売上本数

 「言うまでもなく海外市場は重要。ただ、どの地域が反応するかは蓋を開けてみないと分からない。われわれも中国でここまで反応があるとは分からなかった。最初から多言語対応を行ったり、あらゆる地域でプロモーションを行ったりするのは難しい。なのでユーザーの反応をつぶさに見て、注力エリアを決定し、必要に応じて柔軟に方針転換することが重要」(小沼代表)という。なお、中国で同作が受け入れられた背景については講演内で触れられなかった。

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