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“目に見えないタグ”を物に埋め込み、追跡できる技術 米MITの研究者らが開発Innovative Tech

» 2023年08月30日 12時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 米MIT CSAILなどの研究者らが発表した論文「BrightMarker: 3D Printed Fluorescent Markers for Object Tracking」は、目には見えないタグを物に埋め込み追跡できるシステムを提案した研究報告である。「BrightMarker」と呼ぶこのシステムは、さまざまなオブジェクトの色に埋め込めて、材料の蛍光特性に一致する光源とカメラフィルターを使用して簡単に位置を特定できる。

蛍光フィラメントを使用し、3Dプリントで追跡可能なマーカーを埋め込んだカラーオブジェクトを造形可能

 この新しい手法は、3Dプリントするカラーオブジェクトに蛍光フィラメントを用い、追跡可能なマーカーを埋め込む製造方法である。ボールやコンテナ、ガジェットケース、ギアなど、さまざまな3Dプリントされたオブジェクトに目に見えない蛍光タグを挿入できる。

 ユーザーは以下の手順で操作する。Blenderなどの3Dモデリングプログラム用の専用プラグインをダウンロードし、デザイン内にタグを配置、3Dプリント用のSTLファイルとしてエクスポート。そして、蛍光フィラメントをプリンタに挿入して、隠しタグ付きオブジェクトの製造する。

 この蛍光材料は、特定の近赤外波長で発光する特性を持っており、赤外線カメラで高コントラストで表示される。研究者たちはBrightMarkerを検出できるスマートフォン用とAR/VRヘッドセット用の2つの取り付け可能なハードウェアモジュールを開発した。

 これらのモジュールは暗闇で光るQRコードのようなマーカーを表示・スキャンする機能を持ち、ロングパスフィルター(蛍光だけを検出する取り付け可能な別の部品)を使用して周囲の物体を隠すことができる。

BrightMarkerを追跡するためのハードウェアモジュール

 蛍光タグが挿入された物体は、モーション・トラッキング、バーチャル・リアリティー、物体検出などに活用できる。例えば、蛍光タグを埋め込んだブレスレットを手足につけてVR環境のモーショントラッキングを可能にしたり、偽物の製品を判別するために識別タグを埋め込んだりに使用できる。

手の追跡用ウェアラブルの活用例

 蛍光材料により、タグは特定の波長で発光するように構成されているため、撮影環境内の他の波長によるノイズのために低コントラストでしか検出できなかった赤外線タグよりも、タグの分離と追跡がはるかに容易になっている。従来の目立たないマーカーにありがちな「ぼやけ」が克服され、物体が動いているときでも効率的なリアルタイム追跡が可能になる。

 最大の欠点としては、一から作る3Dオブジェクトに埋め込む方法なため、蛍光タグを既存のアイテムに追加することができない点にある。

Source and Image Credits: Mustafa Doga Dogan, Raul Garcia-Martin, Patrick William Haertel, Jamison John O’Keefe, Ahmad Taka, Akarsh Aurora, Raul Sanchez-Reillo, Stefanie Mueller.



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