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不安しかない「CHAdeMO」の未来 日本発のEV充電規格は、無事生き残れるのか走るガジェット「Tesla」に乗ってます(2/4 ページ)

» 2023年09月09日 15時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

不安になる「CHAdeMO」協議会の考え方

 ただ、いくらトヨタが急速充電インフラの充実に向けて頑張っても日本の急速充電の規格化を推進する人々の意識が旧態依然としたままでは先行きが不安です。

 経済産業省の「充電インフラ整備促進に関する検討会」(23年7月19日第4回)において、CHAdeMO協議会がプレゼンを実施しました。筆者は、その内容を愕然としながら聞きました。

第4回 充電インフラ整備促進に関する検討会

 世界のトレンドと乖離をし始めているCHAdeMOや日本の充電環境の現状を正当化するかのようなポジショントークで塗り固められており「2030年に向けた課題」と題した内容にしてはあまりにも近視眼的で、中長期的なビジョンはどこに行ってしまったのか、という印象です。

 プレゼンの冒頭では、「CHAdeMOは最大400kWまでの能力があり、中国と共同で開発を進めているCHAdeMO3.0『ChaoJi(チャオジ)』であれば、最大900kWまで可能」と胸を張ります。

 おお! ならば全固体電池にも十分対応可能だ、と安心したのもつかの間「それはあくまでも規格上の話であって、現状の能力は90〜150kWが現実であり、この数値は充電ケーブルの定格容量で決まる」と、将来のポテンシャルを誇った直後に充電器の高出力化に対し自ら否定的な見解を示します。

後述する最新のCHAdeMO充電器は、Version1.2の「電流ダイナミック制御」が入っているため課題も発生している(CHAdeMO協議会のプレゼン資料より)

 高出力化を疑問視する理由として「ケーブルの容量を増やすと発熱する。海外の高出力充電器では発熱に対応した液冷式ケーブルを採用しているが、ニーズがないから量産化が進まない」と断じています。

 彼らがニーズがない理由として挙げているのが、充電時間と充電器のコストの関係です。充電出力を上げても時間短縮効果は頭打ちになり、150kW以上の高出力を得るために多大なコストをかけても意味はないという論法です。

 CHAdeMO協議会としては、充電時間、充電設備のコストを考慮した場合、50kW〜150kWこそが、経路充電の最適解であると資料で訴えます。

黄緑の楕円領域が最も適正な出力という主張。グラフの前提条件(バッテリー容量や電費)が曖昧なので読み解きが難しいグラフ(CHAdeMO協議会のプレゼン資料より)

 この検討会の内容を踏まえて経済産業省は、8月28日に「充電インフラ整備促進に向けた指針 (案)」を公開しました。そこでは、経路充電における施策として「1口90kW以上の高出力の急速充電器を基本とし、特に需要の多い場所においては 150kWの急速充電器も設置する」とCHAdeMO協議会のプレゼン内容がそのまま反映されています。

  つまり、今後設置を進める急速充電器は、90kWを基本として一部150kWというのが大前提なのです。充電設備の減価償却上の耐用年数は8〜10年と言われています。ということは、2030年を過ぎても50〜150kWのCHAdeMO規格の充電器が乱立している、という状況が容易に想像できます。

 ただ、一縷の望みはあります。指針には「超急速充電(350kW等)やさらなる高電圧化への対応は、今後の選択肢の一つとして(中略)検討する」という一文が添えられています。9月28日締め切りでパブリックコメントを募集しています。

 リチウムイオン電池製造で中国などに遅れをとった日本の現状を一発大逆転する可能性を秘める(と言われる)全固体電池、そのような優れた器を手に入れても、充電器という蛇口の出力が50〜150kW止まりでは、2030年になっても「EVなんて使えない」という多くのドライバーの声が渦巻くことになるかもしれません。

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