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「AIだからすごいんでしょ」を超えていけ──ヤマハが異例の“生成AIボカロ”オープンβテストに踏み切ったワケ 仕掛け人の「AI美空ひばり」開発者に聞く(2/2 ページ)

» 2023年09月13日 19時30分 公開
[谷井将人ITmedia]
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“製品化の正解パターン”はまだ誰も知らない

 技術的アイデアを受け付けられないのに、なぜヤマハはオープンβテストをすることになったのか。

 「AI時代の技術の使い方って今まさに過渡期にあると思っていて。生成AIが大流行する中で、どう使うのがいいのかってまだ誰も正解を見いだせていないんじゃないかと」(才野さん)

 「その中でヤマハが使い方を決めることは簡単ですが、それを単独で決めるのは本来的にはベストじゃないんじゃないかという思いが根底にあります。特に価値の姿がまだ固まり切っていないAI技術だからこそ、皆さまと一緒にやっていくことの価値がすごく大きいだろうと考えています」(才野さん)

 今やChatGPTやStable Diffusionといった生成AIが大流行し、それらを組み込んだ製品やサービスも続々登場している。しかし、AIをどのように使うべきかという“製品化の正解パターン”が明確に判明しているわけではない。

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 今回の取り組みは、クリエイターからどんな機能が欲しいかを募るものではなく、クリエイターが生み出した作品やSNSでのつぶやきを見て、いまだ分かっていない生成AIの上手な製品化を考えるのが目的だ。

「AIがすごいんでしょ」と言われない作品作り

 全てをAIに任せられるツールが求められているのか、AIの生成物は参考程度でほぼ人間の手で操作できるツールが望ましいのか。今までは人間が全てやってきた。今は全てを完結できるAIもある。では人間とAIをどのバランスで混ぜ合わせるのがベストプラクティスなのか。それを探っているのが過渡期たる今ともいえるだろう。

 「私は『自分がこのAIを使ったからこそこの作品を作れたんだ』と自信を持てることが重要だと思っています。AIが全部勝手に作ったというのではなく、自分がこれだけやったからこうなったんだというところに自信が持てて、それを見た人聞いた人がそれを感じられるか。その辺のバランスを常に意識していますね」(大道さん)

 AIの比重が大きければ、作品を出しても「AIがすごいんでしょ」と言われる。そこで「私がこのAIを上手に使えたからこの作品ができたんだ」といえるかどうか。これは特に音楽やイラストなど芸術分野では重要な観点だろう。

 「クリエイターの能力だけでなく、作品からにじみ出るセンスもあると思うんですよ。その曲にどの歌手を組み合わせるか。その選択からしてそういうところがある。ただいい悪いとか、能力が高い低いってだけじゃなくて、『この人が使うからこそにじみ出る雰囲気・センスなんだよね』って部分が大事だと思っています」(大道さん)

 それをヤマハは今回のオープンβテストで探っていく。グループ全体のポリシーがあるため、VX-βを使った人に直接使い心地を訪ねて機能面のアイデアを収集することはない。クリエイターたちがどのようにVX-βを使うかを遠巻きに見ながら、方針を検討していく。

photo VX-β

 「クリエイターの皆さまにはVX-βを使って全力で作品を作ってほしいです。自分の音楽表現に集中できるようなツールに仕上げていきたいから、どんどん音楽を発信していってほしい。クリエイターが作った音楽や、SNSから漏れ聞こえてくる声があれば、製品づくりの参考になります」(大道さん)

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