コロナ禍が収束に向かう中、過去3年あまり在宅勤務を続けてきた従業員が徐々にオフィスに戻り始めている。しかし出社を強要しようとする会社と抵抗する従業員との対立も表面化しており、中には出社を命じられて従業員の半数近くが退職してしまった会社もある。
マッチングアプリの米Grindrは8月初旬、在宅勤務だった従業員の出社を義務付けるとZoom経由で通告した。ロサンゼルスやニューヨークなど拠点都市のオフィスに週に2回出社する必要がある。それができない場合は退職しなければならず、2週間以内にどちらかを選択するよう迫られて、同月31日までに従業員178人のうち約80人が退職したという。
出社を通告したZoom会議や、その後開かれた説明会でも、Grindrの経営陣は質問を遮って従業員を黙らせたと米国通信労働組合は主張する。同組合は組合員を代表し、Grindrに不当労働行為があったとして訴えを起こしている。
従業員に出社を迫る動きは大手企業でも相次ぐ。報道によると、2022〜23年にかけ、米Twitter(現X)や米Disney、米Starbucksといった大手各社が従業員に対してオフィスへの完全復帰や出社する日を増やすことを義務付けた。
在宅勤務の必須ツールとしてコロナ禍で急成長したZoomでさえも、オフィスから80kmの圏内に住む従業員に対して週に2回以上の出社を義務付けると発表して注目を集めた。米メディアのInsiderはこれについて「リモートワーク革命は死んだ」と評した。
出社を求める理由についてZoomの担当者は「対面の交流の価値を再認識した」と英BBCに語り「製品チームやエンジニアチームが顔を合わせると、ただ同じ部屋にいるだけで多くの問題が解決してしまったことに驚いた」とコメントしている。
米Amazonは23年に入り、週3日以上の出社を義務付けると発表して従業員の反発に遭った。Insiderによると、同社は従業員の反対署名をはねつけ、ポリシーに従わなければ自主退社を求めると通告。8月にはアンディ・ジャシーCEOが「反対しながらコミットする時期はもう過ぎた。それができないのであれば、理解はするが、恐らくAmazonではうまくいかない。少なくとも週に3回は出社するのだから」と迫ったとされる。
こうした傾向は実態調査にも表れている。米シンクタンクが4〜5月にかけて米国の人事担当幹部185人を対象に実施した調査では、従業員を職場に復帰させようとして苦慮しているという回答が73%に上った。従業員の出社を義務付けた組織の71%は、人材のつなぎ止めが難しくなったと答えている。
従業員を職場に復帰させることは、適切な人材を採用すること(80%)に次いで2番目に難しい目標と位置付けられる。職場復帰を促す目的で、チーム形成や記念イベントの開催(62%)、曜日や時間のフレックス制(59%)、ゆったりしたカジュアルな服装を認める(56%)といった戦略を検討・実施する企業も多かった。
企業が従業員に出社を強要しようとする背景には、雇用する側とされる側の力関係の変化もあるようだ。経済の不透明性が強まって大規模な人員削減が行われる中で、採用側の力が増す一方、従業員は失職を恐れて職場へ復帰せざるを得なくなっているとBBCは分析している。
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