“オンプレクラウド”という言葉をご存じだろうか。クラウドの機能をオンプレミス環境でも使えるようにするサービスの総称のようなもので、自社の拠点内にあるサーバしか使えない決まりの企業でも、パブリッククラウドの機能をある程度使える点などが特徴だ。
Azureで言えば「Azure Stack」、Google Cloudでいえば「Google Distributed Cloud」などが相当するが、最も有名なのはAWSの「AWS Outposts」だろう。7月には、NECも実証実験用の施設に導入している。
とはいえ、事例を多く見かけるわけでもなく、ほとんどの企業にとってその実力は未知なはずだ。そこで本記事では、AWS Outpostsのラックを日本で初めて導入し、1年間の検証の後、サービス化までこぎつけたNTTコミュニケーションズの張暁晶さん(イノベーションセンターテクノロジー部門担当課長)と狩野武尊さん(5G&IoT部IoTサービス部門第三グループ担当課長)にインタビュー。検証で得られた知見などを聞く。
まず、オンプレクラウドについて前提を整理しておく。ベンダーによって細かい点は異なるものの、一連のサービスはいずれも「オンプレミス環境に、パブリッククラウドの機能を持ち込める」点を特徴としている。利用に当たっては、対象となるサーバを選定し、ベンダーから調達。社内や自社のデータセンターなどに置いて運用する。
その強みは先述した通り、社内のルールなどによって自社の拠点内にあるサーバしか使えない企業でも、パブリッククラウドの機能が使えることだ。あるいはフルクラウド化を目指す組織が、その通過点として使うことも考えられる。
ただし、パブリッククラウドの機能を全てそのまま使えるわけではない点に注意も必要だ。例えばAWS Outpostsの場合、仮想サーバの「Amazon EC2」やストレージサービス「Amazon Simple Storage Service」など一部しか使えない。サーバの置き場所や調達にかかる時間も考慮しなくてはいけないのもオンプレミスと同様だ。
NTTコミュニケーションズがAWS Outpostsを導入したのは2021年8月。同社はもともと、研究開発の対象としてオンプレクラウドに目を付けていたという。自社のクラウドとパブリッククラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドソリューションを提供する中で、どうしても「自社のデータをパブリッククラウドにアップしたくない」という顧客が出ていたためだ。そのためAzure Stackなどの検証も進めており、その一環でAWS Outpostsも導入したという。
導入に当たっては、AWSと話し合いの上でサーバのスペックなどを決定。検証期間は約1年とした。この間、AWS Outposts導入に当たっての課題や、実際の用途を検証したという。実際に自社の施設内に導入し、オンプレミス上のデータベースの移行先や、同社が提供するノーコードAI開発ツール「Node-AI」の実行基盤といった使い道を試した。
実際に使ってみての気付きはさまざまにあったと張さん。例えばラックの固定だ。少なくとも当時、サーバは車輪つきラックで届いた。外国ならそのままでもいいかもしれないが、ここは日本。地震への対策が必要だ。そこで特注の台座を用意し、床に固定できるようにしたという。
インフラの維持が比較的楽な点も強みだった。インフラ構成をソースコードとして管理できる「IaC」がAWSと同様に使えること、ハードウェアの運用保守はAWSがフルマネージドで受け持ってくれることから、開発に集中しやすかったという。
ただし弱点になりうる特徴もある。実はAWS Outposts自体は、常にパブリックなAWSリージョンに接続している必要がある。NTTコミュニケーションズの場合は、自社の閉域接続サービス「Flexible InterConnect」でAWSリージョンとOutpostsを接続していた。そのため、独立して利用できるAzure Stack Hubなどとは違い、へき地や海上での運用には適さないという。
Outpostsに限らないが、クラウドに比べると拡張性に欠けるのも問題だ。ハードウェアの発送は海外からなので、何かあったときに部品などを取り寄せるのも時間がかかる。あらかじめ、冗長性についての検討が必要だったという。
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