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「みんなにめちゃめちゃ嫌がられた」 “データドリブン行政”に向け庁内のあらゆるデータを棚卸 三重県のDX担当者に聞く苦悩と希望(1/4 ページ)

» 2023年10月12日 10時00分 公開
[本多和幸ITmedia]

 行政の基盤を新しいデジタルテクノロジーでアップデートしようとする流れが本格化している。政府の共通クラウド基盤「ガバメントクラウド」の導入・活用が中央省庁や地方自治体で進む他、データを活用してEBPM(Evidence Based Policy Making、エビデンスに基づく政策立案)に取り組む自治体も散見されるようになってきた。

 クラウドサービス「Google Cloud」を導入して、データ活用の取り組みを進める三重県もその一つだ。同県は2022年度、業務のデジタル化やデータ活用を進める「行政DX推進プロジェクト」を開始。現在、土台となるIT基盤の整備・活用に取り組んでいる。

 とはいえ、ガバメントクラウドへの移行に課題を抱える市町村が出始めているように、自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)は容易な話ではない。取り組みを主導する同県総務部デジタル推進局の岡本悟さん(デジタル改革推進課副課長)によれば、「(県庁の)皆さんにめちゃめちゃ嫌がられた」こともあったという。三重県のDXにおける問題意識と具体的な施策について岡本さんに聞いた。

データ活用で「業務の単なるデジタル化や効率化」の先へ

 三重県が進める行政DX推進プロジェクトは、「クラウドシフト」、「ゼロトラスト」、「データドリブン」という3つの取り組みから構成される。

 クラウドシフトは文字通り、庁内で使っているITツールをクラウドサービスに移行したり、刷新したりする取り組みだ。例えば、庁内のコミュニケーションツールとして、自治体で初めてビジネスチャット「Slack」を全庁導入した。

 続くゼロトラストは、クラウド化したシステムを安全に利用するための、セキュリティ強化の取り組み。そしてデータドリブンは、2つの取り組みで整えた基盤を活用し、データに基づく課題解決や新たな行政サービスの創出に取り組む取り組みだ。

 ただし岡本さんは、このうちクラウドシフトとゼロトラストについてはDXに直接つながるものではないと話す。あくまで「業務の単なるデジタル化や効率化の範疇」という位置付けで、本命はその先にあるデータ活用という。

 「県民のニーズはどんどん多様化している。一方で県庁の職員は40代、50代が中心で20代や30代の職員が少なく、職員は今後どんどん減っていく。この状況に対応するには単なる業務のデジタル化、効率化だけでは不十分で、データに基づいて県民のニーズを把握し、政策判断などをしていく必要がある」(岡本さん)

ALT 三重県総務部デジタル推進局の岡本悟さん

 DXの名の下に、情報システムのクラウドシフトとそれに伴うセキュリティ基盤のアップデートを進めるプロジェクトは官民を問わずよく見られる。しかし三重県では「そこにデータ活用が加わらなければDXにならない」(岡本さん)という問題意識の下にプロジェクトを進めているわけだ。

 ちなみに、三重県の行政DX推進プロジェクトはガバメントクラウドとは別に、同県が独自に立ち上げたものだ。県の情報システム部門である「デジタル推進局」が中心となって財政部門の職員や幹部向けに勉強会を開くなどし、2年越しで関係者を説得して庁内のコンセンサスを形成。予算を確保したという。岡本さんは「本当に必死で成立させたプロジェクトだった」と笑いながら振り返る。

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