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ガバメントクラウド先行導入の神戸市、手応えは? 市長に聞いた

» 2023年05月31日 16時40分 公開
[本多和幸ITmedia]

 人口減少や少子高齢化、都市部への人口集中、インフラの老朽化など、いわゆる「課題先進国」としてかじ取りが求められている日本。キープレイヤーの一翼を担うのは地方自治体だ。データとデジタルテクノロジーの活用を前提に、社会全体のアップデートが求められている。

 いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)に課題を抱える自治体も多い一方で、クラウドサービスなどを先進的な取り組みに役立てようとする自治体もある。例えば神戸市は政府の共通クラウド基盤「ガバメントクラウド」を先行導入している他、浜松市も2020年から独自にクラウド活用の取り組みを進めている。

 他自治体に先行してクラウド活用に取り組む両市のDXはいま、どんな段階にあるのか。本記事では、神戸市・久元喜造市長と、浜松市・鈴木康友市長(肩書は取材当時、実質的な後継指名を受けて当選した中野祐介市長が5月1日付で就任)へのインタビューを前後編に分けてお届けする。

ALT 神戸市の久元喜造市長

先行事業に政令市として唯一参画 導入の状況は

 まずは神戸市の取り組みを整理する。神戸市は「ガバメントクラウド先行事業」に政令指定都市として唯一採択されている。ガバメントクラウドは、AWSなどの対象サービスで構成したマルチクラウド環境を、各省庁や自治体システムの提供基盤として活用する取り組みだ。先行事業では、政府の定める移行期間より先にガバメントクラウドを導入し、効果や課題などを検証していた。

 同事業で神戸市は、基幹システムの横断的なデータ連携基盤や住民記録システムをAWS上のガバメントクラウド環境に移行し、課題を検証した。採択に当たっては、他の政令指定都市など大規模な組織のガバメントクラウド移行におけるモデルになり得ると位置付けられたかたちだ。

 ガバメントクラウド先行事業は21年度にスタート。22年後半から今春にかけて、中間報告が随時公表されている。久元市長によれば、東京リージョン、大阪リージョン間で「DR環境」(災害時を見据えた予備の環境)を構築し、災害対策を強化したこともあって、ガバメントクラウドの利点を再認識できたという。

カギは「国とのコミュニケーションを活発化」

 一方で、課題も明確になった。例えば、業務の標準化に関する課題が浮き彫りになったという。

 デジタル庁は現在、地方自治体の基幹業務(住民基本台帳、国民年金など20業務)の標準化を進めている。複数の民間事業者が一定の基準に沿った業務システムを開発、ガバメントクラウド経由で提供し、自治体が状況に合わせて導入する仕組みだ。つまり、自治体は業務システムに合わせ、既存業務を見直し、共通化する必要がある。神戸市はここで問題に直面したわけだ。

 「問題は、標準化が成功するかどうか。政令指定都市の業務は非常に幅が広く、小規模な市町村にはない業務もある。こうした事情も踏まえて、国にしっかりした仕様書をつくってもらう必要があるのだが、このプロセスが遅れ気味だった」(久元市長)

 しかし、22年8月に河野太郎・デジタル大臣が就任して以降、政令指定都市の市長が集まる「指定都市市長会」を窓口としてデジタル庁とのコミュニケーションが活発化。標準仕様の策定プロセスは「相当進みつつある」(久元市長)という。

 今後は、共通化されたシステムへの移行に伴う財政負担についてもデジタル庁との議論を進める方針だ。移行を支援するITベンダーを全国の自治体が漏れなく確保できるようにする枠組みについても話し合うという。

「データに基づく政策立案」も実現 全庁単位の取り組み加速へ

 神戸市はこのほか、「EBPM」(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング、証拠に基づく政策立案)を進めるための環境整備にも注力している。各業務システムのデータをAWS上のデータ連携基盤に自動で蓄積し、職員がBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどでデータを分析。作成したダッシュボードを庁内でセキュアに共有できる環境「Kobe Data Lounge」を整備した。これにより、政策議論の初期段階からデータを活用できるようになったという。

 さらに、市民税申告業務の自動化にも着手。オンラインでの申請を可能にした他、審査など全ての工程を自動化し、年間7300時間の事務作業を削減するなど、定型業務の自動化にも積極的に取り組んでいる。

 久元市長は一連の動きについて「完全にボトムアップの取り組みで、プロパーの職員、社会人採用の職員、ジョブ型雇用の外部人材がチームを組んで成果を出しできたということ」と振り返る。

 今後は、個々の部署が進めてきたデジタル活用を全庁単位で推し進めたいと久元市長。「企画調整局」という部署を司令塔とし、各部署の取り組みを横ぐしを通した動きに発展させ、行政のDXにつなげていきたいという。


 後編では、ガバメントクラウドに先行してAWS活用を進めてきた浜松市の現状や、両市がデジタル人材の獲得に向けて進める施策についてお届けする。

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