例えば、「アンパンマン」に対して、「アンパンマンは●●」のような誹謗中傷をしても、アンパンマンの名誉感情侵害を理由に、発信者情報開示請求をすることはできません。アンパンマンはキャラクターであり(少なくとも法的には)人ではないからです。ただ、内容によっては、演じている声優さんなどへの権利侵害となることはあり得ます。
VTuberはキャラクター的な側面と「中の人」の人間的な側面が共存する存在です。そのため、例えば「弁護士郎」というVTuberがいたとして「弁護士郎は●●」といった誹謗中傷があったとき「『弁護士郎』というキャラクターへの誹謗中傷か」、もしくは「弁護士郎の『中の人』への誹謗中傷か」という点が一見して分かりにくい、という問題があるのです。
この点については、投稿内容などを分析し、VTuberに対する誹謗中傷を「中の人」に対する誹謗中傷と認定する裁判例が出てきています。
例えば、2022年の裁判例では、特定のVTuberのスレッドにおける「仕方ねぇよバカ女なんだから 母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」(原文ママ)という投稿について、「本件投稿は『●●(筆者注:VTuberの名称)』の名称で活動する者に向けられたものであると認められる」として「中の人」が投稿によって名誉感情を侵害されたと認定しました。
明確な理由は述べられていませんが、問題となった投稿の直前の投稿はVTuberの体調不良による休養中にリツイート(当時)をしたことに関する非難する内容であり、この投稿を受けて、上記のような「仕方ねぇよ・・・」との投稿がされておりました。つまり、現実世界でのTwitter(当時)上の行動に言及した投稿であり、キャラクターではなく、「中の人」への侮辱と判断したものと考えられます。
いまだ、判断基準が明確に定まっているものではありませんが、今後はこのように、VTuberの名前に対する誹謗中傷であっても、「中の人」に向けられたものであると判断する裁判例も増えてくると思われます。
なお私見としては、例えば、誹謗中傷の内容がキャラクターのプロフィールと矛盾していることも、判断のうえでの考慮要素になると考えます。
例えば、上記の裁判例のように「母親がいないせいで…」という誹謗中傷について、VTuberのプロフィール上は母親が存在する場合、この誹謗中傷は、キャラクターではなく、「中の人」に向けられたものと考えるのが自然です。VTuber側としては、このような点も含めてさまざまな事情を主張して「中の人への誹謗中傷である」ことを裁判所に示していくことになるでしょう。
実際に、許しがたい投稿があった場合、投稿を削除される前に保存したいと考える方もいらっしゃるかと思います。この場合の注意点ですが、裁判で使用することを考えた場合は「どこに」「いつ」「なにが」投稿されたかを明確にする必要があり、URLの表示がほぼ必須になります。
スマートフォンでの投稿部分のスクリーンショット画像を持ち込んでいただくこともあるのですが、スマートフォンのスクリーンショットではURLが見切れやすいため、できれば、PCなどから、URLの全文が表示されるようにし、画面ごとPDFにしておくとベターです。
時間が経過すると対応が難しくなる場合もありますので、総務省のサイトなどを参考に、早めに所属している事務所や適切な相談先に相談されることをお勧めします。
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