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「本人の声とそっくりな合成音声」の悪用に対して法的権利はあるか? NTT社会情報研究所が調査Innovative Tech(1/3 ページ)

» 2023年11月22日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 NTT社会情報研究所と慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に所属する研究者らが発表した論文「音声合成AIの利用場面における法的課題―「声」に権利はあるのか―」は、音声合成技術によって生成された、本人の声と酷似した合成音声が利用される場面において主張しうる権利について、著作権、パブリシティ権、個人情報の観点からの解釈を探求した研究報告である。

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 現代の音声合成技術は特定の人物の声を基にして、その人と非常に似た合成音声を生成する能力を持つ。このような実在の人物の声の合成は、なりすましや詐欺などの不適切な使用が問題視されていることに加え、声の再現や公開がその人物の人格的利益や名誉感情に影響を与える可能性もある。また声優や歌手のように、自らの声を職業活動に利用する人々にとっては、無許可での声の再現や使用によって経済的損失を被る恐れがある。

音声合成技術は声優や歌手の仕事にも影響を与える可能性も

 この研究の焦点は、特定の人物の音声データから学習させたモデルを用いて、任意のテキストをその人物の声で読み上げる合成音声技術にある。日本ではこの問題に関する具体的な法的争訟例はまだ存在しないとされるが、研究では架空の事例を設定し、この技術が引き起こしうる問題点を探究する。以下がその事例になる。(音声合成AIの利用場面における法的課題―「声」に権利はあるのか―より引用)。

 声優Xは、所属するタレント事務所での活動に加え、インターネット上の動画共有プラットフォームにおいて、自身のトーク配信やゲーム実況動画等の投稿を行っている。その独特な声と語り口調から、Xのチャンネルは数百万人規模の登録者を持つ人気を博していた。

 Xの動画を定期的に視聴していたYは、Xの声を音声合成によって再現したいと考え、Xに無断でXがこれまでに投稿した複数の動画の音声部分を抽出し、音声合成モデルの学習用データセットとして整理・加工。その後Yは、加工したデータセットを自身が開発する音声合成モデルに学習させ、完成した学習済みモデルを自身のWebサイト上で公開した。

 その際、説明書きには「あの人気声優の声を完全再現!」などと記載した。自営業を営むZは、自身が販売する商品の宣伝広告用動画を制作するに当たり、動画内で商品の紹介をするナレーションを探していた。

 Zは、YのWebサイト上で公開されている音声合成モデルを見つけ、その声の雰囲気が動画に最適だと考えたことから、あらかじめ用意しておいたナレーション原稿をモデルに入力し、出力された合成音声を動画に使用したうえ、これを公開した。

 この種の事例では、自分の声を無許可で音声合成や使用をされたXが、YやZに対してどのような権利を訴えることができるのかが焦点となる。この研究では、具体的に、Xの主張可能な権利を、著作権、パブリシティ権、個人情報保護法の各法的側面から検討している。

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