一度回すと、約30分は回り続けるらしいのだが、筆者が、適当に軽く指で回しただけでも、延々と回り続けていた。これは内部のベアリングをミネベアミツミが、周りの部品は三菱プレシジョンが開発したもの。ベアリングの性能と、外殻のバランスの良さの両方があって初めて、この回転時間が実現する。
「これ、当時(2018年)200個限定で販売したら、1個5万円だったのにも関わらず、3日で完売して驚きました」と広報・IR室長の小峯康生さん。今でも、YouTubeなどで検索すればいくつも動画が見られる。丁度、ハンドスピナーが流行していたこともあって、注目を浴びたのだそうだ。
「このテクノロジーは回転抵抗をいかに減らすかということですが、これは実はサイズに関係なく同じテクノロジーなんです。バランスをちゃんとして、あとはベアリングの抵抗です。部品精度や設計ですね。なので、他のサイズにも転用できるので、低消費電力を要求されるお客様に対して仕様の提案をしたりといったことを行っています」(油井さん)
このテクノロジーは精度はもちろん、セラミックのボールを使ったり、グリスオイルの選定や内部設計などが組み合わされているもの。なので、外殻を作る三菱プレシジョンにとっても大変なプロジェクトだったはずだが、最初から乗り気だったという。技術への挑戦が好きな人たちが作っているパーツは、それだけでうれしくなる。しかし、セラミックの方がグリスが不要で摩耗にも強いのは分かるが、ナノメートルの世界に耐える精度が焼き物で出せるということに驚く。
そして、当たり前だが、ボールベアリングは製品のパーツの一つであり、製品が要求する性能は、ただ摩擦が少なかったり、精度が高ければ良いというわけではない。今回のトラックボールにおける使い方は、適度にトルクを感じるチューニングが必要で、そのあたりのカスタマイズもミネベアミツミの持つ技術の一つ。それこそ、ボールに使うステンレスの材料の選定や開発、グリスの選定やグリスメーカーとの連携も重要なのだ。
「ステンレス材でいうと、最近、わが社で開発したのは、通常使っているステンレス材と比べて、何百倍も錆に強い材料もあります。例えば、フィッシング・リールとか、車の泥水がかかりやすい部分などで使っていただいています。JIS規格には塩水の試験の規格があって、これが過酷な試験で、通常のステンレス材だと50時間いくかいかないかといったものなのですが、当社が開発したGP GIGA PROTECTIONという材料は5000時間でも錆びません」と油井さん。
フィッシングリールもトラックボール同様、直接手でボールベアリングを回す製品だが、そちらの世界ではミネベアミツミのボールベアリングが使われているというのはユーザーにとってステイタスでもあるらしい。それは、錆びにくいというだけではなく、その回転性能によるものだそうだ。
「今回のトラックボールの場合は、回転性能はもちろん、振動レベルについてもエレコムさんと相談して、パーツを選定しました。エアコンや掃除機のモーターで使われるボールベアリングは、効率や耐久性はもちろん、静音性が求められます。それで、振動レベルのスペックを設けて音のコントロールも行っています」と油井さん。
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