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テスラ車に潜む「ファントムブレーキ」という“幻影” オーナーが実際に体験した一部始終走るガジェット「Tesla」に乗ってます(2/3 ページ)

» 2023年12月17日 17時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

テスラの「FSD」は日本でもテスト中

 8月、イーロン・マスク氏は「X」の自らのアカウントにおいて、Full Self Driving (FSD)BETA Version 12(12月にリコールが発表されたオートパイロットとは別の新しい運転支援機能)による運転の様子を実況中継しました。動画の中でマスク氏自身が運転の様子を解説しています。

 ちなみに、Full Self Driving BETA(完全自動運転β)という名称ですが、実際には、レベル2の高度運転支援です。運転者が常時監視し、いつでも運転に介入できるようにしておく必要があります。実際、この動画の中でも20分付近で「これが最初の介入」とマスク氏が発言しています。

 FSD BETA v12は、全てニューラルネットによる学習で構築したプログラムで実行されています。それ以前のバージョンでは、人間のプログラマーの手が入ったルールベースで構築されていたそうですが、従前の人手によるコードは破棄したとのこと。学習の手法だけを見ると、ChatGPTの自動運転版と言ったところでしょうか。

 ニューラルネットが学習に利用するデータは、市井の一般ドライバーが運転するTeslaの車載カメラなどから得た情報だといいます。他の企業が開発している自動運転のように、開発用に用意した特定のクルマを特定の地域で走らせてデータを収集するのとは異なり、あらゆる環境における、あらゆる運転状況のデータを集めることができるというメリットがあります。

 前述のマスク氏の実況動画の中から興味深い発言を拾ってみました。

 「スピードバンプ(路面の出っ張り)で"減速する"というプログラムは書いていない。全てビデオ映像からの学習によるもの。自転車を追い越すときに一定のクリアランスを開けるのも学習した結果」

 「一時停止の標識で完全に停止するドライバーは0.5%だけ。FSD BETAもそれを学習して完全停止しない。規制当局がそれではだめだと言ったので、システムを人為的にトレーニングし完全停止するようにした」

 「推論コンピューティングは、ハードウェア3.0(HW3、車載コンピュータ)で約100ワットで行っているので、インターネット接続が切れても安全に運転できる」(著者注:約100Wというのは、データセンターのような膨大な電力は不要なのでローカルで演算可能、という意味か?)

 そして、日本についても言及していました。「ニュージーランド、タイ、ノルウェー、日本を含む世界中でFSD BETA v12のテストドライブを始めている」

 日本でもFSD BETA v12のテストを行っていると明言しています。日本でFSD v12自体、いつ利用可能になるかは現時点では不明ですが、そういえばTesla Japanは、車両データを収集する目的でテストドライバーを募集していました。

年齢制限がないようなので、応募してみようかと思ったが「週5日/40時間」勤務では複業としては厳しいかも

 件の動画は、約45分のFSD BETA v12によるドライブの様子ですが、マスク氏自身最後に「とてもスムーズ、1回の介入があったけど学習量を増やせば直る」と絶賛しています。そして、配車サービスであるUberのドライバー評価に喩えて「介入がなければ、星5つ」と締めくくっています。

 2019年以降のモデルには、動画中でマスク氏が言及したHW3と呼ばれる車載コンピュータが搭載されており無線アップデート(OTA)により、FSD BETAを利用可能です。つまり、筆者の2021年製のModel 3もオプション料金(87万1000円)さえ支払えば、将来は、FSD BETAの恩恵を受けられる可能性があるということです。

 ただ、90万円近くを出費するだけの価値があるのかどうかは、やはり自分自身で体験してみないことには、なんとも言えません。せっかく、ハードウェアが対応し、OTAが可能なので、正式サービス開始時には、サブスク等でお試し利用を可能にしてもらいたいものです。

 もっと言うなら、時間や距離を限定した利用メニューがあると完璧です。例えば、旅行の帰路、「運転に疲れたから24時間分のFSD BETAを購入しよう」といった購入方法があれば理想的です。

 現在自分が運用していくクルマが、将来、ソフトウェアアップデートで自動運転が可能になる、というポテンシャルを持っているという事実に、ユーザーとして歓びを感じます。Model 3を選択してよかったと実感した瞬間です。

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