FSD BETAを紹介した直後にオートパイロット(現状の運転支援機能)の欠点について書くのも気が引けますが、これもTeslaの現実です。
この夏、久しぶりにファントムブレーキを短期間に3回体験しました。ファントムブレーキというのは、オートパイロット作動中に、何の前触れもなく自動ブレーキが作動することです。「ファントム=幽霊を察知」が語源のようです。
3回中2回は、ガラスルーフに吸盤型ホルダーで装着したGoProで撮影していたので、詳しくご紹介します。最初は関越道でのことです。82km/hで走行車線を走行中、突然、警告音と共に自動ブレーキが作動し、一瞬にして69km/hまで減速しました。自動ブレーキはそこで勝手に解除されましたが、慌ててアクセルを踏んで80km/hに戻しました。
数字にするとたった13km/h減速しただけですが、一瞬の急減速なので、つんのめり感があり、筆者も同乗者も驚いたことは確かです。後から、スクリーン映像を確認すると、前方にそれまで存在しなかった、ワンボックス型のクルマのオブジェクトが突然、一瞬だけ赤色で警告表示され、すぐに消えています。まさにこの瞬間にファントムブレーキが発生しています。
その次の事例では、渋滞気味の横浜新道を38km/hで走行中、ファントムブレーキが発生し一瞬にして27km/hまで減速しました。このときも減速感はかなりのものでした。
映像を確認すると、ガードレールで区切られた歩道を歩行者が歩いています。スクリーン上の映像では、最初は前方を向いて歩いていたのが、次の瞬間、人物が回れ右をして、車道に向かって横断するかのような姿勢で赤色警告表示されています。まさにこの瞬間にファントムブレーキが発生したのですが、すぐにアクセルを踏んで加速しました。
関越道のファントムブレーキについては、同乗者が、右から黒いビニールのようなものが飛んで来て横切ったと証言しています。筆者は気が付きませんでしたし映像でも確認できませんでした。
もし、黒いビニールが本当なら横浜新道の歩行者の事例と併せて、幽霊を認識したのではなく、そこに実在する物体を誤認識した上で、その挙動を誤って予測したことになります。
ユーザーとして、このような自動緊急ブレーキをどう捉えたらよいのか悩めるところです。自動緊急ブレーキがちゃんと機能する安全側に振ったフェイルセーフの証しと考えるべきか、あくまでも誤作動であり、あってはならないことなのか……
Teslaは、10月中旬のアップデートでミリ波レーダーの機能を無効化し、カメラ映像(Teslaビジョン)だけで運転支援を機能させるように変更しました。そうなると、件のファントムブレーキ発生時(8月)は、ミリ波レーダーが有効だった可能性があります。ただ、誤認識がミリ波レーダーに起因するのか否かは、市井の1ユーザーにはうかがい知れません。
この原稿を書いた後、Teslaビジョンによるオートパイロットが、かなり優秀になったことを実感する経験を何度かしました。それが、ミリ波レーダーを無効化したからかどうかは分かりませんが、ある程度「ネタ」がそろった時点でその様子を本連載で報告したいと思います。
ファントムブレーキにまつわる話として、ミリ波レーダーとカメラの2系統からの情報処理の是非について、自動車経済評論家の池田直渡氏が、「テスラビジョンへの移行は正しいのか?」で、高度で的確な解説をしているので参考にしてください。
オートパイロットの誤作動の情報はTesla側でどしどし吸い上げていただき、8月末から稼働を開始した世界有数の処理能力を誇るTeslaのスーパーコンピュータで、運転支援の学習に役立てた上で将来のアップデートに反映してもらいたいものです。
著者プロフィール
音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR