――VSP on Cloudでは現状、AWSと協業している形ですが、これはマルチクラウド化していくのか、それとも当面はAWSとの連携を深めていく方向なのか、どちらなのでしょうか
島田 ユーザー企業はさまざまなクラウドを選択しますから、Microsoft AzureやGoogle Cloudといった大手クラウドサービスプロバイダーとは当然連携していくことになります。
ただ、そうはいってもAWSが世界的にデファクトスタンダードに最も近いわけですから、まずはより多くのお客様のニーズに応えるためにも、AWSを活用したVSP on Cloudをしっかり市場に訴求していきます。
――ミッションクリティカル向けのストレージでは、Dell Technologiesなどがライバルになると思います。ハイブリッドクラウドのアプローチで日立が差別化できることはなんでしょうか
島田 ミッションクリティカルシステムの高信頼性を支える技術やソフトウェア・デファインド(仮想化)の技術、運用ノウハウを自社で一貫して開発、蓄積してきた点です。例えばDell Technologiesはソフトウェア・デファインドの技術をM&Aによって手に入れていますから、そこは明確に違うところです。
――開発思想やアーキテクチャの一貫性があるかないか、ということでしょうか
島田 そうです。その結果として、現状、我々だけが、高信頼性かつトランスペアレントにデータをどこでも使えるようにできる技術を持っていると自負しています。AWSにもクラウドストレージサービスはありますが、彼ら自身もミッションクリティカルな環境向けの性能や信頼性、可用性というところは、自社のノウハウだけではカバーできないという課題感を持っています。
――ストレージのI/O負荷がミッションクリティカルシステムをクラウド化する際の大きなボトルネックになるケースも多いと聞きます
島田 まさにそこを我々が専門家として解決していくということです。
――今回、re:Invent 2023で印象に残った新発表はありますか
島田 やはり生成AI関連の新発表が多かったですよね。IT業界全体で、生成AIの進化と活用がすごいスピードで進んでいるなと改めて感じました。Expoの展示を見ても、割と小規模なソフトウェア会社が生成AIを使っていろいろと新しいことにチャレンジしているのが非常に印象的でした。我々も刺激を受けていますし、スピード感を持ってビジネスを進めていかなければと気持ちを新たにしたところでもあります。
一方で、日立の強みを再確認する機会にもなったと思っています。生成AIは、結局データが全てなので、ユーザー企業がデータをきちんと蓄えないと差別化できないというのはAWSからの明確なメッセージでもありました。その点、日立はデータをしっかり蓄えて管理するという技術に絶対の自信がありますから、ストレージの需要はさらに加速していくと考えています。
――生成AI向けのパッケージやオファリングを日立ヴァンタラとして市場に投入していく可能性もあるということですか。
島田 はい、24年春先には生成AI向けのインフラを出す予定です。ユーザー企業がオンプレミスで保有しているデータと、オープンなデータを合わせてLLMに食わせるとなると、ハイブリッドクラウドのデータ基盤が必要です。まさにミッションクリティカル向けストレージ製品・ソリューションを活用してもらえるチャンスですので、そこにGPUやファイルストレージ、オブジェクトストレージなどのソフトウェアを組み合わせたパッケージを用意するイメージです。
――日立のストレージソリューションを生成AIで進化させていくという方向性もあるのでしょうか。
島田 それも今、内部で盛んに取り組んでいます。まず、サポート関連のいろいろな業務について多数のドキュメントを学習させることで、高性能なAIアシスタントの開発を進めています。障害が起こったときに原因や影響範囲の特定を助けてくれるようなものですが、これは比較的いろいろなITベンダーが類似の取り組みを進めていますよね。
2つ目はソフトウェア開発のところですね。生成AIに一部のコード生成をやらせて、自動化できる範囲を広げていこうとしています。
3つ目は、ユーザーの要望を伝えると、複雑な構成のストレージを自動的に設定してくれるような機能も開発しており、概念実証を進めているところです。正確性にはまだ課題がありますが、面白いことがすでに結構できているかなと思っています。これは最終的に独立した製品として外販していきたいと考えています。
大規模システムはストレージの複雑な構成と膨大な設定がユーザー企業の大きな負荷になっていました。生成AIはそこを一気に解決できるゲームチェンジャーになるという実感があります。
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