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「定年まで逃げ切れなかった」デイリーポータルZ独立 林さんに聞く不安と希望「もう一度、インターネットらしく」(4/5 ページ)

» 2023年12月22日 15時28分 公開
[岡田有花ITmedia]

YouTuberになって、月100万円稼ぎたい

 でも、100万円、200万円の記事広告の営業をするより、 僕がYouTuberになった方がいいかなって。それで月100万円ぐらい入らないかなって。

――えっ。今からYouTuberですか。

 そうなんです。記事広告は取れなかったらゼロだけど、動画だったら継続的にいくばくかのお金になっていかないかな。今からYouTuber、なれるかな。僕も縦動画ばっかり見てるし、あれをやった方がいいんじゃないかなって。

画像 YouTuber、なれるかな

 例えば、「YouTuberで稼ぎたくて動画をアップしました! 再生数200回でした!」ってわーって言ってるところも リアリティーショーみたいに記事にできる。独立後は、そういう内情も赤裸々に書けます。

 今の時代、動画にしないと誰も見てくれないんじゃないかという不安はあります。動画を見る人と字を読む人を比べると、後者のほうが圧倒的に少ないし。

 90年代、僕が個人サイトを始めた時に動画があったら、動画を作っていたんじゃないかと思います。ネットでおかしいことがしたいだけで、テキストにこだわるつもりはなくて。たまたま当時、それしかなかっただけなので。

 新しいものを追いかけてる方がいいかなと思って。テキストじゃなきゃダメとか、固い側になるのは嫌じゃないですか。TikTokが流行ってるならTikTokをやっている方がネットらしいというか。

 デイリーポータルにも、YouTubeを使った企画は前からあったんですが“デイリーポータル的”なことをしてなかったので。だから1回やってみてもいいのかなって。

久しぶりに、インターネットらしいインターネットになるといい

――記事の方向性は変わりますか?

 久しぶりに、インターネットらしいインターネットになるといいなと思っています。企画のテイストの古さも含めて。

 今のネットって、まっとうな記事が多いじゃないですか。商品レビューとか。そういうのは読みやすいし、数字が取れるし、アフィリエイト収入にもつながる。

 でも、「石田純一みたいなカーディガンを5色着て、5人で樹海に行く」みたいな記事、今誰もやらないでしょう。「全国にある『ゴリラ岩』という名の岩を訪ね歩く」「逃げる群衆だけの怪獣映画を撮る」とか、そういうふざけたのをやっていきたい。

画像 「ぞうきんのしぼり汁で旨いお茶は入れられるか」より。想像より清潔な記事なので安心してお読み下さい

 僕自身は、今年の夏ぐらいから好き勝手な記事を書いていました。「ぞうきんのしぼり汁で旨いお茶は入れられるか」とか。こういう感じにテイストを戻すことは、意識してやっていきたいですね。そのために会社を作ったみたいなもんですからね。

 でも、東急グループにいたときも、会社に「そういう記事はやめなさい」と言われたわけではなくて。いつの間にか、固い感じになっていた。会社員なので、ちょっとブレーキをかけて、遠慮してたのかなあと。

 あと、間接業務が意外に多かった。編集会議をやり、会社の会議に出て、資料や数字作ったりとか……毎日会議していたと思います、ニフティ時代から。たぶん会議が好きなんだな。編集会議も「対面でやろう、みんな出勤してよ」って言ってました。僕の話を聞いて笑ってほしい会議なんで。リモートだと僕の話がウケてるかどうか分からないから。

 マネジメントもやっていました。1on1とか急にやりはじめたことがあって。5人に対して1on1をやると、けっこうすぐ時間が埋まるんです。そういうのを、やったりやめたりを繰り返して……。ビジネス書とかですぐ影響されるんです、僕が。

「一生かかっても書けないぐらいのネタがある」

 1月からしばらく、毎日記事を書きたいと思っています。書くのはいくらでもできるし、ネタもいくらでもあるのでそれは安心、大丈夫です。一生かかってもかけないぐらいのネタ帳があるし、不安はない。

――1人会社だし、ある意味、個人サイトですよね。

 すごくアドバンテージがある個人サイトです。ライターがこんなにいて、みんなデイリーポータルが好きで、気さくで、僕が毎日書かなくても毎日何かあって、「撮影しよう」と言ったらすぐ集まってくれて。こんな楽な個人サイトはないかもしれない。

 読者もついてくれているし、みんな頭がいいんですよね。僕が急に「ビジネスだ!」とか言っても読者が見透かして「林が変なことを言い出したぞ」って分かってくれて。嬉しいですよね。

――林さんが書く分には原稿料はゼロですしね。

 原稿料がなくなったら必然的に、僕1人の個人サイトになっちゃうかもしれないですよね。

 でもライターさんが原稿料で生活できるようになるといいですよね。まず収支を改善して、原稿料を元に戻して。将来は、みんなが週1本書くだけで普通に暮らせるぐらいの原稿料が出せるようになるといいですよね。1本5万円とかで週1で書いたら、月20万円になりますもんね。でも、原資がないからなあ。

 こういう話、読者には関係ないですね……。このサイトが食べていけるかどうか、みたいなの。

もっと分かりやすくしたいし、PVを狙いたい

――いや、私を含めた古参ネットユーザーは、運営が大丈夫なのかすごく気にしてます。というか話を聞いていた私自身、読者のこと考えてなかったです、すみません。では改めて、読者にとってはどんなサイトにしたいかを改めて伺います。

 「相変わらず変わらないな」って思ってもらえるサイトを維持しつつ、親切にしようかなと思っています。

画像 記事のどこが面白いかを林さんが解説して、親切にしてみた例

 文章は受け手の負荷が高いと思っていて。デイリーポータルは特に、ライターが普通のこと書いているかのようなフリをしながら変なことを書いたりするから……。どうやれば分かりやすくなるか、考えているんです。

 動画って分かりやすいなと思っていて。僕がYouTubeで「この記事のここが面白いです」って実況みたいにしゃべろうかな。

 デイリーポータルにもまじめな記事が増えているから、もうちょっとPV(ページビュー・閲覧数)を狙ってもいいなと。

――林さんはPVをあまり気にしないイメージでした。

 狙って数字を取る記事も好きですよ。例えば、筑波大学の記事をアップするたびにPVが来るので、「つくば特集」をやってたくさん記事を出したんですが、ヒットしました。

 「面白さとPVは比例しない」なんて悲観されがちですけれど、面白いものは読まれるし、比例するんじゃないかと思います。変わったことをやってスベると目も当てられないですけど、変わったことをやった面白い記事は、「私が使っているおすすめの包丁」の記事より何倍も読まれる。PVと面白さは比例しなくないぞと。

画像 「寝ぐせを直しに川にいく」より

 タイトルで笑わせるのが大事ですよね。その行動がおかしいかどうかがタイトルですぐ分かる。「寝ぐせを直しに川にいく」とか「5000円も貰ったので『シャネル』へ買い物に行く」も読まれたし。

 今後、編集作業は僕と石川くんの2人でやることになるんですが、6人でやっていた時より直接ライターさんと話をすることが多くなって「もうちょっと企画をひねった方がいいんじゃないか」とか言えるようになるから、それは楽しみですね。ライターは嫌かもしれないけど。

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