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「定年まで逃げ切れなかった」デイリーポータルZ独立 林さんに聞く不安と希望「もう一度、インターネットらしく」(2/5 ページ)

» 2023年12月22日 15時28分 公開
[岡田有花ITmedia]

――過去の移籍はすべて会社が決めていました。今回初めて、林さんが強く主導した移籍になりますね。

 そうです。これまでずっと言われるままに転籍してきたんで。僕のサラリーマン人生でこんなに自分の意思を出したのは初めてです。

 会社員はアイデンティティだったので、困りますよね。会社でふざけているとか、「東急グループの会社員なのに」っていうエクスキューズがあったのに、フリーランスだと「こういう奴、よくいるよね」ぐらいですよね。

画像 こういう奴、よくいるよね

収支と赤字額は? 台所事情を大公開! 

――新会社はベタに「デイリーポータルZ株式会社」なんですね。

 独立を考えていたときに、仮で「デイリーポータルZ株式会社」って言ってたのがそのままになって。何も考えずに決めました。「株式会社二重帳簿」とか「株式会社未入金」「株式会社火の車」とか一応考えましたが、税理士から「反社会的なのはだめ」って言われて。

――えっ二重帳簿。なんでそんな名前を……。

 名刺を出したときに笑いが取れるような、面白いほうがいいかと思ったんですが、そういう場ばかりではないので……。そういうところはふざけない方がいいというのは、会社員生活で学びました。

 デイリーポータルZ株式会社は僕1人の会社なのですが、東急グループにいた編集チーム5人全員が退職し、フリーランスになって、業務委託で関わることを選んでくれました。東急グループは「残ってもいいよ」って言ってくれてたんですけれど。

 石川(大樹)くんと橋田(玲子)さんはサーバ関係と経理などでがっつり関わってもらいます。古賀(及子)さん、安藤(昌教)さん、藤原(浩一)くんには、 ライターとして書いてもらいます。

収支は? 新生デイリーポータルの台所事情を大公開! 

――1人会社で人件費を極限まで削減しても、赤字見通しだそうですね。具体的な収支を教えてもらえますか?

 はい……。まず経費は月間300万円ぐらい。人件費、制作費、サーバ費用がだいたい3分の1ずつです。

 24年1月からは、原稿の本数を絞って、ライターさんの原稿料を一時的に下げさせてもらっています。これまで通りの原稿料でいくなら、さらに100万円必要なんですが……。

 ライターさん一人ひとりに「原稿料を戻せるよう経営を頑張るから、半年待って」と、借金している人みたいな言い方で説明しに行ったんですが、みんな二つ返事でOKしてくれて。優しいですよね。

 予算の都合で休載させてもらうライターさんもいるのですが、事情を理解してくれて逆に励まされたりしました。動画企画の「むかない安藤」「プープーテレビ」、ゲームの「おぎわら遊技場」も経費の都合で終了しますが、もうかったら復活させたいです。

何でもむかずに食べる「むかない安藤」は終了する

 経費300万円に対して、定常的な売上は、バナーが月100万円、「はげます会」が月150万円(12月21日時点。前日まで100万円だったが、20日の独立発表後に50%増えた)で合計250万円。差し引き50万円の赤字です。

 1本100万円〜200万円の記事広告が入れば黒字にできる計算で、法人営業も手応えがあるので、トントンまでいけるかもと期待しています。

 でも、月100万ぐらいまでの赤字だったら、なんとかなるんじゃないかなあ。こんなことをベンチャーキャピタルとかに言ったら、すごく怒られそうですけど。「出資したい」という話もなくはないんですが、めんどくさいから、いいかな。事業プランとか書かないといけないし、出資者の言うことをきかないといけないし。

サーバ代が高いから、自宅サーバにしてもいいな

 デイリーポータルで使っているAWSのサーバとCMS(コンテンツ管理システム)といったインフラも譲渡されるんですが、サーバ代とかすごい高いんです。

 AWSの構成を見直して、もう少し安くしてほしいって今お願いしています。多少へぼくなってもいいんですけど、そういうものでもないらしくて。CDNはCloudFrontを使っているんですが、高いので、Cloudflareに乗り換えてコストを削減する予定です。

 サーバ負荷が高くなったら見られなくなるサイトでもいいかなって思ってるんですけどね。川が増水すると流れる橋、みたいな。

 自宅サーバにするのもいいなと思って。昔はみんなやってましたよね。デイリーポータル、自宅サーバでやってたら笑えますよね。Pentiumみたいな。サーバ組んで、その裏側も全部記事でみせたりして。

 CMSはオープンソースのConcrete CMSだから無料です。保守費は今回かなりディスカウントしてもらいました。みんなの優しさで生かされています。

「はげます会」に助けられています

 収益面では「はげます会」(月1000円)の会員が1500人いてくれるので、本当に助かっています。独立を発表する直前は1000人ぐらいで、月100万円の収入になっていました。12月20日に「独立します」と発表して、赤字見込みをメディアに公表したら、500人も入ってくれて、月50万円の収入アップになりました。

画像 はげます会の案内

――毎月1000円を、1500人もの読者が出してくれているんですね。

 Netflixより高いんですよ。こんなのおかしいですよね。でも入ってほしくて。

 読者・受益者の方からお金をいただくのが一番シンプルなので。クライアントや会社(読者以外の出資者)の方を向かなくていい。読者と1対1になれるので、本当に、独立していいことしかないです。漠然とした不安以外は。

 不安といっても、そんなに暗くなる必要はないんです。ニフティの退職金とか、蓄えはある。林は2年は食っていけます。でも途中でお金がなくなってきたら、記事の「戻る」ボタンを押した時に全画面広告が出始めるかも。そしたら「日和ったな」って楽しんでほしい。

 デイリーポータルも以前、記事の途中に自動で広告が入る機能を使っていたんですけど、すごい巧妙な広告が入って、読みにくくなっちゃったんですよ。でもすごいもうかった。もうかったんですけど、やめました。やめたので、はげます会に入ってほしいな。12月31日までは、初月無料になるキャンペーンをやっています。

月10万円出せば、林さんが「なまはげ」で年末挨拶にくる

――「はげます会」には月1万円の「もっとはげます会」、5万円の「超はげます会」、10万円の「はげまし王」が増えました。課金額、やばいですね。

 やばいですよね。

画像 やばいですよね

 もしかして、税金対策とかでお金使いたい人がいたら、たくさん出してくれるかなって。「今日中に10万円使わなきゃいけない」みたいな人が……いないかな。 とりあえず置いといた感じですね。

 月5万くれたら、僕がカレンダーとか持って年末のご挨拶に伺って、1時間愉快な話をしたりします(2024年末から)。10万くれたら、なまはげで行きます。なまはげの衣装、作りますよ。なまはげ以外にも、獅子舞やマリアッチ(派手な衣装を着たメキシコの楽団)など、リクエストに応じて。

 でも今、コース変更機能がなくて。独立を発表する前日の夜になってコース変更ができないことがわかって……。なのでコース変更は、一度退会してからになります。

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