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もはや「◯軸」呼びは古すぎる “最高のメカニカルキーボード”に不可欠なキースイッチ最新事情と選び方ハロー、自作キーボードワールド 第13回(1/3 ページ)

» 2023年12月29日 16時00分 公開
[びあっこITmedia]

 いろいろなパーツを組み合わせて自分好みの1台を作る「自作キーボード」について紹介する本連載。今回は以前紹介したキースイッチについて最新のトレンドを基に、いまや「◯軸」と一言で表せない多彩なメカニカルキースイッチたちがどのように評価され、熱心なキーボードファンがどのように「自分にとっての最高のキースイッチ」を見極めているか、といったより一層ディープなメカニカルキースイッチの世界を探訪してみよう。

びあっこ(@Biacco42)

自作キーボード「Ergo42」作者。自作キーボードのDiscordコミュニティ「Self-Made Keyboards in Japan」管理人。

連載:「ハロー、自作キーボードワールド」

自作キーボードの作者であり、キーボード関連のニュース動画「ほぼ週刊キーボードニュース」を配信するぺかそとびあっこが、自作キーボードの世界の“入り口”を紹介していく。


キースイッチの果たす役割

 最近HHKB Studioが静電容量無接点スイッチではなくメカニカルキースイッチを選択したことで「HHKBらしい打鍵感が失われるのでは」と物議を醸したが、これは多くのHHKBユーザーがキースイッチに対してこだわりを持っていることが分かる印象的な出来事だった。

 自作キーボードに限らずメカニカルキーボードを特徴づけるのは、その名前にも含まれている「メカニカルキースイッチ」であり、打鍵体験に大きな影響を与える重要なパーツだ。キースイッチの役割は文字通りスイッチであり、電気信号のオンとオフを切り替えることでどのキーが押されたかをPCに伝えることだ。

 しかし現在ではそれ以上に、キーボードの押し心地である「打鍵感」を左右するパーツとして注目されている。そしてこの打鍵感を向上させるために、メカニカルキースイッチは近年急速な進化を遂げている。

メカニカルキースイッチの大分類と「◯軸」

 メカニカルキースイッチの種類には大きく分けて「リニア」「タクタイル」「クリッキー」の3種類があることは以前の記事でも紹介した。これらは現在主流となっているCherry MX互換スイッチのルーツであるCherry MXスイッチのラインアップに準拠したもので、打鍵時の触覚フィードバックと音の発生機構による大別となっている。

 メカニカルキースイッチといえば「赤軸」「茶軸」「青軸」という言葉を思い浮かべる人も多いと思うが、これらはそれぞれCherry MXスイッチの「リニア」「タクタイル」「クリッキー」の代表的製品を指す言葉であり、「◯軸」という呼び方はそれらスイッチの軸の色に由来している。「タクタイル=茶軸」という認識が先行したため、他のタクタイルタイプのスイッチを指して「茶軸」と呼ぶなどの同一視も見られた。

 しかし近年ではオリジナルのCherry MXスイッチを超えるべく、より高品質を目指した互換スイッチがさまざまなメーカーから毎週のように発売されており、「リニア」「タクタイル」「クリッキー」の三分類ではメカニカルキースイッチを評価しきれなくなっている。そのため「打鍵感」について詳細な分析と評価指標が求められるようになった。

打鍵感の向上を目指した色とりどりのキースイッチ。◯軸と表現するのはもはや不可能であり、商品名(とメーカー名の組み合わせ)で呼ばれることが多い

「打鍵感」→4つの指標に分解

 ここからは現代のメカニカルキースイッチにおける「打鍵感」がどのように分析・評価されているかについて解説していく。簡単のため、ここからは特に断りがなければメカニカルキースイッチをスイッチと記述する。

 現代の打鍵感の評価指標は「リニア」「タクタイル」「クリッキー」にかかわらず、どのようなスイッチであれ満たされるべき指標として議論されることが多い。具体的には大きく分けて「ぐらつきの少なさ」「なめらかさ」「フォースカーブ・バネ」「」の4つの指標で評価される。これらの評価指標についてより詳細に見ていこう。

スイッチの外観と分解した様子。左から完成状態、トップハウジング、ボトムハウジング、軸(ステム)、バネ。ボトムハウジングには銅色のリーフスプリングが見え、ここが電気的接点となる。軸は上下ハウジングのレールに沿って摩擦しながら運動し、接点のオン・オフを行う
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