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他人が装着するイヤフォンだけに“いきなり音楽を注入できる”システム 明治大が開発Innovative Tech

» 2024年01月09日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 明治大学の渡邊研究室に所属する研究者らが発表した論文「WhisperCast: ヘッドフォン装着者だけが聴取可能な音を再生する磁気誘導を利用した手法の検討」は、ヘッドフォンやイヤフォンを装着している人のみが聞こえる音声や音楽を外部から挿入するシステムを提案した研究報告である。

WhisperCastを用いて外部からヘッドフォン装着者に音を送っている様子

 このシステムは、磁気誘導を用いて、ヘッドフォンやイヤフォン内の振動板を直接鳴動させ、装着者だけが聴取できる音を生成する。WhisperCastのハードウェア構成には、空芯コイルとアンプを含んでいる。

 具体的なプロセスとして、コンピュータが任意の波形(通知音や好きな音楽、音声など)を生成し、これを音声信号として出力する。生成した音声信号は、アンプによって増幅、その後、空芯コイルへ供給する。このコイルは、電流が流れることで磁気を発生させ、その磁気がヘッドフォンやイヤフォン内の振動板に影響を及ぼし、可聴音を生成する。この音声は、装着者のみが聴取可能である。

システムの概要図

 WhisperCastによって発信する通知音は、市場で広く流通しているダイナミック型のヘッドフォンやイヤフォンで聴取でき、追加の受信機器は不要である。有線であれ無線であれ、イヤフォンの接続状況や電源のオン/オフ、アクティブノイズキャンセリング機能の使用の有無に関わらず、WhisperCastからの通知音は聞こえる。

 さらに、WhisperCastのコイルから離れると磁場が弱まるため、コイルの近くにいる人だけに音声情報を送ることが可能である。ただし、コイルの近くでは強い磁場が発生するため、ペースメーカーに影響を与える可能性や、他の電子機器に影響を及ぼす可能性がある。

 このシステムは、街中でヘッドフォンやイヤフォンを装着する人が増えている現代において、音による情報伝達の新しい方法として有用である。応用例としては、美術館や博物館での個別音声ガイド、屋外広告、緊急時の通知などが考えられる。

Source and Image Credits: 高橋 和也, 渡邊 恵太. WhisperCast: ヘッドフォン装着者だけが聴取可能な音を再生する磁気誘導 を利用した手法の検討. 第31回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ(WISS2023)予稿集, https://www.wiss.org/WISS2023/



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