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大災害と“インターネット”の切っても切れない関係 3.11の教訓は生かされたか小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2024年01月11日 16時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

先の教訓が生かされたインフラ復旧

 東日本大震災当時は、多くの地域で携帯電話回線が繋がらないという問題が起こった。津波によって基地局などの通信設備が失われた地域はもちろん、首都圏では多くの人がスマホ回線に殺到し、輻輳によってダウンしたケースも多かった。先の地震は首都圏も巻き込んだことで、とにかく大人数に影響が及んだことが特徴であったと言える。

 今回の能登半島地震でも、各キャリアの通信網が被害を受けた。設備そのものが損壊したケースや、停電が続いて非情報電源の燃料も切れたために使えなくなった設備もあるという。道路が寸断されているために、復旧も手間取っている。

 NTTドコモは、自衛隊に協力を仰いでホバークラフトを使って海岸から移動基地局車を上陸させた。またドコモとKDDIは共同で、船舶上に基地局設備を設置した船上基地局を運用している。ソフトバンクは有線ドローンを使って空中から通信エリアを確保する「有線給電ドローン無線中継システム」を展開中だ。さらにKDDIとドコモはそれぞれ衛星インターネット「Starlink」を避難所などに提供している。このあたりは、先の震災の教訓から様々な実証実験や検証がなされてきた結果が生かされた。

ドコモとKDDIが共同で運用している船上基地局(船はNTTワールドエンジニアリングマリンが運用する海底ケーブル敷設船)
ドコモもStarlinkを避難所などに設置している(ドコモは2023年から「Starlink Business」を提供

 能登半島の特殊性は、細長い土地で陸路がほぼ沿岸部に集中しており、それが土砂崩れで寸断されているために、外部から陸路での現場接近が非常に困難であるという事であろう。先の震災では通行可能な道路を通って多くのボランティアが現地入りし、インターネット回線網の復旧に尽力したが、今回はそれが難しい。さらにこれから大雪ともなれば、ますます陸路移動は困難になる。しばらくはキャリアのワイヤレスネットワーク復旧に任せるべきだろう。

 テレビ放送網は、元々送信設備が山頂にあるため、津波の被害は受けにくい。電波を射出する側の放送局社屋が損壊しない限り、放送には耐えられる。3日に行なわれた総務省の非常災害対策本部会議資料によれば、地上波放送は停電により非常用電源で運用を続けており、ある意味電源次第という事のようだ。

 すでにワンセグ受信端末などはほぼ市場から姿を消しているが、スマホがあればNHK+がずっと地上波放送をサイマル送信しており、アカウントにログインしなくても視聴できた。NHKはおそらくスクランブルも解除しているため、B-CASカード等がなくてもテレビで受信できたはずだ。これは先の震災のときからすでにそういう運用になっていた。公共放送として当然と言えば当然の対応だが、災害時にはあらゆる方法で全国同じ条件でアクセスできるというのは、心強い。

 ラジオは受信側の負担が少ないのがウリであり、先の震災以降は特に災害に強いメディアとして宣伝されてきたという経緯がある。同じ資料によれば、県内2箇所で非常用電源の枯渇により停波とあるが、こちらも電源次第で復旧できるだろう。

 ただ1箇所、石川県羽咋市で送信アンテナ柱が破損している。現在は仮設設備にて復旧しているものの、ラジオの電波塔は全国的に海岸近くや河川敷などの公有地に建てられることが多く、津波による水没や設備破損、流失はあり得る。仮設で復旧はできるものの、まさに津波が押し寄せている最中には情報が得られなくなる可能性があるインフラであることは指摘しておいていいだろう。

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