ITmedia NEWS > 社会とIT >

大災害と“インターネット”の切っても切れない関係 3.11の教訓は生かされたか小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2024年01月11日 16時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

ネットリテラシーは向上したか

 先の震災で重要な役割を果たしたTwitterは、現在Xとなり、いろんな意味ですっかり変わってしまっている。とはいえ、震災の情報を求めてXにアクセスした人は多かっただろう。現在もなお多くの官公庁が公式アカウントを運用しており、その点では後発のBlueskyやThreadsも、これに取って代われるほどの広がりは見せていない。

 筆者も震災直後からNHKとXの情報を並べて見ていたが、当日18時24分頃にはすでに行方不明者と思われる方5〜6名の情報を、実名フルネームおよび番地まで詳細に記された住所付きで流布するアカウントが多く見受けられた。確認のために住所をGoogle Mapで検索してみたが、どれも実在する住所であった。

X上で公開された実名と実在住所をまとめて拡散するアカウント

 だがこうした個人情報の拡散の仕方はどうなんだろうという思いが募る。そもそも、何のために今この情報を拡散しているのか、目的がわからない。大津波警報が出て今すぐ高台に逃げろとNHKのアナウンサーが絶叫している真っ最中に、そこに助けに行け、という意味なのだろうか。さらに言えば、急いで避難している該当エリアの人達が、Xなんか見る余裕があるだろうか。

 行方不明者の親族が心配して、安否確認のためにやむなく個人情報を公開する気持ちはわからなくもない。だがそれは、その本人が自分の責任において、という話である。一方こうした情報をわざわざまとめて、無関係の第三者が全世界に拡散するということは、後々この個人情報が元で何らかの損害を被る可能性を考えると、普通は情報リテラシー的に「アウト」と判断される。それは災害時であっても変わらない。災害が収束したあとまで、その情報はネット上に残り続けるからだ。

 同日の午後8時過ぎには、大手新聞がXで救助を呼びかけたものが無事救出されたと報じたが、これは本当に裏を取った話なのだろうか。救助されたことと、Xへの投稿の関連性がわからない。「Xに投稿したから助かった」かのような報じ方は、大新聞がやるべきこととは思えない。こうした情報を見かけた場合、やるべきことは拡散ではなく、そのエリアにいる人が然るべき消防や警察といった公的機関に連絡することである。

 また東日本大震災時の津波の動画を、さも今の映像であるかのようなコメントを付けて流布するアカウントもあった。あまりにも悪質であるためXに通報しようとしたが、ニセ情報に対する通報項目がなく、へきえきとした。

Xにはニセ情報を拡散させようとする者への通報項目がない

 後日の報道によれば、架空の住所で救出を求める投稿も数多く存在したという。この背景には、Xがインプレッションを多く獲得したユーザーに対して、広告収益を分配する仕組みを導入したためとも言われている。貧すれば鈍す、ということか。

 同じく当日18時頃には、先の震災から引き続き防災情報を発信している「特務機関NERV」が、XのAPI使用回数が上限に達したため、自動投稿できなくなったと投稿した。XのAPI制限は、過剰なスクレイピング負荷を下げるためという理由から、昨年7月1日からオーナーであるイーロン・マスク氏の意向によって導入された措置だ。個人ユーザーでは上限に引っかかる事はないかもしれないが、自動投稿するシステムには影響がある。

 ただし当日の21時頃には、X社の対応により、同アカウントが公共アプリに登録されたためにAPI制限が緩和されたという。

 これで解決して良かった良かった、という話で終わりにしていいのだろうか。先の震災時には、日本でのトラフィック急増に対応するため、リソースを多く振り分けて落ちないようにする措置が取られていたことが、あとになって明らかになった。一方今回は、重要なアカウントのAPI制限も緩和も、大騒ぎになってから動き出すという、完全に後手に回っている。もうXは、かつてのTwitterのような社会的責任と使命を負うインフラとは言えなくなったのではないか。だが逆にこれで、Xに依存しすぎていた緊急情報インフラをもう一度ちゃんと考え直さないとマズい、という決断になってくるだろう。

 暗い話だけしていては希望が見えない。今回の震災で不幸中の幸いだったのは、正月休みで多くの若者が帰省していたことだろう。こうした人達が足腰の悪い年寄りを背負って避難したことで、助かった命もそうとうあったものと思われる。

 また避難場所の高台でテレビもない中、情報に強い若者がネットで情報を仕入れて年寄りに伝えることで、情報格差が埋まったという話も聞こえてくる。一方地元の年寄りは、地域に顔が利く。避難生活の中でも、あそこに住んでたおばあちゃんというだけで、融通が利く。こうした老若のコンビネーションによって、世の中はうまく回るはずなのだ。

 少子化、首都圏集中など日本が抱える問題は多いが、大災害をきっかけに好転してきた歴史を持つ国でもある。今回の震災もまた、何らかの改善につながることを望みたい。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.