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震災で意識高まる「家庭内蓄電」 太陽光の“卒FIT”にポータブルバッテリーメーカーが注目する理由小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2024年01月18日 08時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

ソーラーは「本格自家消費時代」へ

 家庭内で使用する全ての電力をバッテリーから補うということは、10年前には現実的ではなかった。そもそもそれだけの大型バッテリーで個人が買えるようなものがなかったことや、毎日充放電を繰り返すのではバッテリー寿命が3〜4年で尽きてしまうという問題があったことから、当時は家庭内に貯めず、系統電力へ流すという方法が採られていた。

 一方米国では、送電インフラの老朽化により、1人当たり年間平均1.4回の停電を経験しており、平均停電時間は7.9時間だという。こうした事情から、系統電力と家庭内電力配線の間に大型バッテリーを挟むという方法論が考え出された。日本でポータブルバッテリーというと小型〜中型のアウトドア製品が主力だが、米国では家庭内設備として大型のものが売れてきた。

 日本でもおそらくこうした転換が起こるだろうとするのが、バッテリーメーカーの予想だ。理由は3つある。1つは災害対策として自家用電源を確保しておきたいという需要、2つ目はソーラーパネルからのDCをACに変換するパワーコンディショナーの製品寿命が10年程度しかなく、FIT狙いで初期にソーラーパネルを設置した家庭ではそろそろパワーコンディショナーの交換時期になること、3つ目は買い取り価格の下落により、売電に旨みがなくなったことだ。つまりパワーコンディショナーを買い換えるぐらいなら、「卒FIT」として代わりに大型バッテリーを入れましょう、というシナリオである。

 ただ、日本独自の家庭内引き込み方式である、単相三線式の出力に対応するバッテリーがなかったことから、そうした方向性にはどうしても煮え切らないものがあった。単相三線式とは、簡単に言えば3本線で家庭内に電力を引き込む結線方法で、例えば左側が正相の100V、真ん中がアース、右側が逆位相の100Vとなる。左とアース、右とアースを結線すればそれぞれ100Vが取り出せ、右と左を結線すれば200Vが取り出せる。大型エアコンや電気給湯器など200Vが必要な機器にも対応できるため、日本のほとんどの家庭はこれである。

 つまり、いくら大型バッテリーが家庭内のコンセントとして使えるとはいっても、屋内配線へ接続できなければ、天井埋め込みの照明や給湯器への給電はどうするんだ問題が解決しないわけである。

 ECOFLOWが年明けに発表した新モデル「DELTA Pro Ultra」は、国内で販売されるポータブルバッテリーとしては初めて、単相三線式の入力に対応した。製品としてはユニット型となっており、インバーター部分とバッテリー部分をケーブルで接続する。またバッテリー部分は最大5台まで連結、拡張できる。定格出力は6000W(100V換算で60A、200V出力も可)、バッテリー1基で6144Wh、5台で約30kWh。4人家族の電気使用量平均は1日あたり13.1kWhなので、ミニマムで約11時間、最大構成でおよそ2日半はバッテリーだけでいける事になる。

2024年1月に発売予定のECOFLOW「DELTA Pro Ultra」

 ただし、単相三線式の配線変更は、一般人にはできない。電気工事士の資格を持つ事業者に依頼して、工事して貰う必要がある。つまり、DELTA Pro Ultraは個人で買えるといえば買えるのだが、家庭内配線に組み込むのであればハウスメーカーや太陽光発電システム事業者経由で手配する商品という事になる。

 今後、条例による義務化でソーラーパネルを設置しなければならない新築住宅では、もはや売電はナンセンスだ。多くの世帯では自家消費のために、パワーコンディショナーではなく、DELTA Pro Ultraのような大型バッテリーを導入することになるだろう。

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