生成AIやSaaSで活気づくスタートアップにとって、新規上場(IPO)は一つのゴールだ。日本でもベンチャーキャピタル(VC)が有望なスタートアップ企業に出資するのが普通になり、VCから出資を受けた企業は、IPOを目指して業績拡大を目指している。
ところが昨今、上場が可能な業績に達しているのに、IPOできないというスタートアップが業態を問わず増加しているという。IPO支援サービスを手掛けるPayment Technologyの上野亨社長は「ボトルネックは上場主幹事を務める証券会社(主幹事証券会社)だ」との見方を示す。
主幹事証券会社とは、上場を望む企業をIPO前〜IPO後に渡って支援する証券会社のこと。IPOに当たっては欠かせない存在だ。しかし、クラウドサービスを手掛けるオロが実施した調査によると、上場を目指す経営者の37%が主幹事証券会社の確保に困っているという。一体、主幹事証券に何が起こっているのか。
スタートアップの上場に当たっては、野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券、SBI証券などが主幹事証券会社を務めることが多い。主幹事証券会社はIPOに向けたサポートを行うとともに、上場時には株式の公募や売り出しの手続きを行う。
Payment Technologyによれば、主幹事証券会社がついて、上場準備を進めている企業は約750〜800社。一般に上場には3年前後の時間がかかるとされていて、毎年約100社が上場を果たす一方で、約100社は上場を諦めるという状況という。
逆にいえば、既存企業が上場したり諦めたりしなければ「新規でIPOを目指す企業にとって主幹事証券会社の枠が空かない」(上野社長)わけだ。業績が好調でも、主幹事証券会社を獲得して上場準備に入れる企業は限られてしまう。これが“IPO難民”が生まれる背景という。
この構図が生まれたきっかけは2008年のリーマン・ショックだ。実はリーマン・ショック以前、IPO件数は年間150〜200件あった。つまり現在の2倍近い企業がIPOしていたわけだ。ところが、リーマン・ショック以降、市況の悪化により新規上場する企業数が極端に減少する。2009年はわずか19社、10年も22社にとどまった。
このタイミングで主幹事証券会社は、上場準備を行える能力を持った担当者数を削減。担当できる社数を絞り込み、景気が回復した後も元に戻していないという。これにより、主幹事証券会社が担当できるキャパシティーがIPO社数の上限となり、毎年100社前後しか上場できなくなってしまった。
となると「上場ニーズがあるのに、主幹事証券会社はなぜ取り扱い社数規模を拡大しないのだろうか?」──という疑問が浮かび上がってくる。ここには、証券会社側の事情がある。
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