世の中にはプロ向けの編集ツールは多いが、ポストプロダクションでは同じツールで統一することが多い。同じツールであれば、編集の手直し等で編集者が変わったとしても、編集データの互換性問題に悩む必要がないからだ。
だが作品が複数のポストプロダクションを渡り歩くような場合や、編集者が途中で降板して他の人に変わるといった場合では、編集ツールが変更になることがある。そこで問題になるのが、編集データのエクスポート・インポートだ。頻繁に起こることではないが、いったん起こると結構大変というのが、タイムラインのデータ互換である。
過去、テープ編集の時代には、EDL(Editing Decision List)によって編集データを共有していた。素材の違いはテープのリールナンバーで管理するしかないが、テープが変わってもリールナンバーを変更せずそのまま使用する編集者が多いため、実際には素材のタイムコードは分かるがどのテープなのかは分からないといった問題がある。
一方でEDLは、単に編集プロセスを記録したテキストリストなので、データを素読みすればだいたい何をやっているのかが分かるというメリットがある。ただしこれは、EDLベースのオンライン編集機、すなわちテープ編集の代表機種とされるCMX 3600やソニーBVE-9100といった編集機を実践で使ったことがある人でなければ、難しいかもしれない。
ノンリニア編集が主流となった現在も、EDLによるタイムライン共有は多くの編集ツールがタイムラインのインポートフォーマットとして対応していることから、手堅い方法ではある。
実際にDaVinci Resolveでサンプルのタイムラインを作成してみた。カット編集のベースにインサート1カ所、PinP1カ所、全体にサンプルのテロップ、ディゾルブが1カ所という構成である。EDLでエクスポートしたのち、新規プロジェクトにEDLを読み込んでみた。
DaVinci Resolveの場合、単にEDLを読み込んだだけでは素材がない状態になるが、手動で素材を読み込めばファイル名等を頼りに自動的にマッチングされ、復元される。だがインサートカットとテロップのデータが読み込まれていない。EDLによる変換の問題点として、ビデオトラックのデータが1つしか持てないという点が指摘されている。
ただEDLの名誉のために言っておくと、本物のCMXなどのEDLには、インサートカットの情報も記載される。ただトラックという概念がないため、ビデオオンリーのカット編集データが記載されるだけである。要するにこうした記述式を多くのノンリニア編集ツールが理解できないために、復元できないという事だろう。
他方で、テキストデータではなくバイナリファイルで編集データの互換を取ろうという動きもある。AAF(Advanced Authoring Format)は、AMWAという業界団体が開発したフォーマットで、現在はSMPTEで標準化されていることから、多くの編集ツールが採用している。
さらには、AppleのFinal Cut Pro 7時代のXMLファイルをそのまま互換フォーマットとして採用しようという動きもある。XMLは撮影素材がテープからファイルベースになった時代に、素材の互換性を目的とした記述式として利用されるようになり、Final Cut Proは採用が早かった。よって編集ツールの世界では、Final Cut Pro 7タイプのXMLが事実上の標準となっていった。
とはいえ、一定の標準化されたフォーマットに頼るということは、これ以上の拡張性が望めないという事でもある。こうした課題をオープンソースの力を借りて解決しようという取り組みが、Pixar Animation Studiosを中心に開発されているOpen Timeline IO(OTIO)というプロジェクトである。
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