ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >
STUDIO PRO

注文殺到の「成金おじさんフィギュア」 製造はフルカラー3Dプリンター 作者に聞く“3Dの可能性”(1/3 ページ)

» 2024年03月17日 10時00分 公開
[井上輝一ITmedia]
「どうだ 明るくなつたろう」でおなじみの“成金おじさん”

 「どうだ 明るくなつたろう」──。燃やした紙幣を手に持ち、暗い場所を照らす「成金おじさん」の絵は、多くの人が教科書などで見かけたことがあるだろう。あの成金おじさんが、いまフィギュアとなり話題となっている。

作者で、吉本アートファクトリー(兵庫県神戸市)代表の吉本大輝さん

 作ったのは、大型生物の骨格標本の3D化なども手掛ける吉本アートファクトリー(兵庫県神戸市)代表の吉本大輝さん。成金おじさんフィギュアも3Dモデリングで原型を作り、フルカラー3Dプリンターで生産している。

 商流に乗る通常のフィギュアなら金型による生産が普通だ。成金おじさんフィギュアはなぜ3Dプリンターで作っているのか。3Dモデリングのメリットは。立体造形物の祭典、Wonder Festival 2024 Winter(2月11日、幕張メッセ。以下ワンフェス)で吉本さんに取材した。

受注殺到で3台のフルカラー3Dプリンターがフル稼働

 吉本さんは2つの会社を運営しており、特に高知県高知市を拠点とする吉本3Dファクトリーでは3Dプリンターの出力サービス事業を展開している。吉本3Dファクトリーでは3台のフルカラー3Dプリンター(ミマキエンジニアリングの「3DUJ-2207」)を設置しているが、それらが成金おじさんフィギュアの量産にかかりきりだったという。

生産拠点である吉本3Dファクトリーに並ぶ3台のフルカラー3Dプリンター(同社公式サイトより引用

 もともと、成金おじさんフィギュアは2022年7月に制作したもの。絵画『成金栄華時代』の作者である和田邦坊の作品を展示・管理する「灸まん美術館」(香川県善通寺市)に吉本さんがフィギュアを持ち込んだのがきっかけで、同美術館と吉本アートファクトリーのECサイトにて販売が始まった。

原作である絵画『成金栄華時代』とフィギュアを並べた図

 注文が殺到したのは、X(旧Twitter)のユーザーが「ほしすぎる」と投稿したところ、これが約1万回リポストと話題になったため。ワンフェスでも販売したが、開幕から30分足らずで完売となった。

なぜ3Dプリンターで?

 はじめにも書いたように、ある程度の生産を見込むなら金型を起こしての生産も通常なら視野に入る。しかし、3Dプリンターでの制作にはメリットがあると吉本さんは言う。

 「金型から作るとなると、数万個単位で在庫を持つことになる。その在庫を博物館や美術館といった施設で持つのはリスクで、今の時代なかなか難しい。フルカラー3Dプリンターであれば、注文が入るたびに出力して販売できる」(吉本さん)

 塗装が不要なのもメリットだ。通常の3Dプリンターなら樹脂の色がそのまま出るため塗装が必要になる。金型による生産も同様だ。フルカラー3Dプリンター(3DUJ-2207)はインクジェット方式で1000万色以上の表現が可能。まさにフルカラープリントの3D版といえる。

 特にフルカラー3Dプリンターでないと制作が難しい立体物もある。例えば、吉本さんが制作している生物の骨格標本フィギュア「玉骨標本」がそれだ。

玉骨標本「マッコウクジラ」(XLサイズ、非売品)

 玉骨標本は、生物の外形をかたどった透明な樹脂の中にその生物の骨格が浮かぶフィギュアだ。これまでにマッコウクジラやシャチといった大型の海洋生物の他、シバイヌやイエネコといった現生生物、ティラノサウルスやトリケラトプスなど古代生物の玉骨標本を販売している。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.