現在大学では、学生がAIで生成させて提出してきた課題に対して、どう見分けるかに苦慮している。AIを使ったかどうかをAIに判断させるといったことも、現場レベルでは行われているだろう。それはもはや、人とAIの化かし合いである。
同様の悩みは、今後企業の採用担当者にも降りかかるだろう。持っていない資格を履歴書に書けば、詐欺罪としての適用も考えられるが、ポートフォリオに書かれたPR文章がAI生成したものであった場合は、どう考えるべきだろうか。自分の考えが反映されているなら、AIが作った流麗な文章でもよしとする担当者もあるかもしれない。
だが文章力も選考の1つだとすれば、書かれた文面は本人の実力ではないという事になる。採用担当者は、初めて見る応募者の文面を、AI生成であると見分けることができるだろうか。
自己PR動画でも同じ事がいえる。今の動画編集ソフトであれば編集点も分からないし、AIツールを使えば本人の声で流ちょうな英語や中国語への吹き替えもできる。ツールの存在を知らない担当者は、本人の能力であると勘違いするだろう。
さまざまなツールが使えるということは、本人のスキルとなり得る。AIを使って美しい文章が作れる、写真を加工できるというのも、1つのスキルかもしれない。就活生達は、条件のいい会社の最終選考に残れるように、あの手この手で作り込んだポートフォリオを作ってくるだろう。だが、自分のポートフォリオがAIで作られたものであるということを隠して就活に望むということがスタンダード化すれば、その人となりを知るための手段としては、ポートフォリオすら当てにならないということになる。
採用担当者からすれば、たくさんの応募者の中からなるべく効率的に欲しい人材を探したいだろう。だがAIが誰にでも使えるようになった今、その採用責任も問われるようになる。
結局、その「人となり」を見たり、本当の実力を知るためには、実際に働かせるインターンシップだったり、目の前で書かせる実技試験を実施したり、面接に時間をかけたりするしか方法がないという事になるだろう。
「人となり」みたいなフィーリングで採用を決めていいのかという問題もまたありそうだが、実際一緒に働くということになれば、なんだかインチキ臭い者に仕事は任せられない。一緒に利害関係を共有するにあたり、人間として信用できるのかというのは重要なことである。
就活生は、取りあえず入社してしまえば何とかなると考えているかもしれない。さらに日本の法律では簡単に解雇できるようにはなっていないことから、こうした人材を受け入れてしまった企業側の負担は増大する。ゼロから育てたのにキャリアアップのために転職されてしまっては、やってることは「給料を払って勉強してもらう学校」である。
こうした悲劇を避けるために、大学や就活サービス企業は、就活におけるAIの活用……というより、企業に提出するものに誠実さはあるかということを、学生に強く指導する必要があるのではないだろうか。
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