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他人がGPT-4とやりとりしたテキストを盗む攻撃 成功率50%以上 イスラエルの研究者らが発表Innovative Tech

» 2024年03月21日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 イスラエルのネゲヴ・ベン・グリオン大学に所属する研究者らが発表した論文「What Was Your Prompt? A Remote Keylogging Attack on AI Assistants」は、大規模言語モデル(LLM)を活用したAIチャットbotが生成するテキスト回答を復元するサイドチャネル攻撃を提案した研究報告である。攻撃者は、AIチャットbotが応答する際の通信データを傍受することで内容を復元して他人のやりとりを盗み出すことができる。

ユーザーとLLMの間のデータ通信を傍受することで、LLMの応答内容をテキストで復元可能

 攻撃方法としては、まずユーザーとLLMの間の暗号化されたパケット通信を傍受するところから始まる。次に、傍受したトラフィックから、LLMの応答メッセージの位置を特定する。応答メッセージが特定できたら、次に各メッセージサイズの変化を分析することで、応答に含まれるトークンの長さを推測する。

 その後、抽出したトークン長シーケンスを、文章などの意味のあるまとまりに分割(セグメント化)する。分割したシーケンスを、2つの専用LLMからなるモデルに渡して、応答のテキストを推論する。

 1つ目のLLM(LLM A)は、最初のセグメントをトークン長から復元するように設計している。2つ目のLLM(LLM B)は、前のセグメントの推論結果をコンテキストとして用いながら、残りのセグメントを順次復元するように設計している。選ばれたセグメントを順につなげることで、完全な応答の推論結果を得る。また、攻撃対象のAIチャットbotが生成した大量の応答例を学習データに加えることで、推論モデルの精度をさらに高められる。

攻撃のフレームワーク

 有効性を評価するため、米OpenAIや米Microsoft、米Googleなどの主要ベンダーが提供するサービスを対象に実験を行った。まず、GPT-4で生成した1万件の応答を用いてテストを行った結果、最初のセグメントについて、54.5%の攻撃成功率を達成。さらに、最初のセグメントの28.9%を非常に高い精度で復元できた。応答全体での攻撃成功率は平均37.96%であった。

AIチャットbotとベンダー、LLMに対する提案攻撃の脆弱性(●=あり ○=可能性あり)
GPT-4を提案手法で復元した結果 赤文字は失敗した箇所を指す

 次に、提案した攻撃手法がノイズが多い現実世界でも通用するかを確かめるため、OpenAIのChatGPT(GPT-4)とMicrosoftのCopilotの2つを対象に実験を行った。これらのサービスは、ブラウザアプリ、マーケットプレース、APIなど複数の形態で提供している。

 結果、応答内容を推論できることが分かった。ブラウザアプリとマーケットプレースでは30〜53%の攻撃成功率を達成し、APIでは17.7%の攻撃成功率を記録した。

Source and Image Credits: Roy Weiss, Daniel Ayzenshteyn, Guy Amit, Yisroel Mirsky. What Was Your Prompt? A Remote Keylogging Attack on AI Assistants



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