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Chatworkに聞く「どんなスタートアップに投資したい?」 重要なのは中小企業への“フィット”VCに聞く「投資したい・したくないテックスタートアップ」(2/2 ページ)

» 2024年04月19日 12時00分 公開
[吉川大貴ITmedia]
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中小にフィットするか重視 投資先選定の考え方

──まずはざっくりと、投資先選定において重視している点を教えてください

森さん:(以下敬称略):われわれは事業会社なので、事業シナジーやグループ拡大にどうつなげられるのかを考えています。

──シナジーを見込むのはBPaaS事業でしょうか

森:はい。BPaaSによるバックオフィス業務の効率化にニーズがあると考えており、特に経理の分野に注目しています。個人的な考えですが、バックオフィスの業務は給与計算含む経理・労務が6〜7割を占めると考えているので、まずはここを取らないといけない。2023年にグループインしたミナジン(大阪市)も、労務管理のBPaaS事業や給与計算などのSaaSを持っている企業でした。

──経理・労務支援系のスタートアップも多種多様と思います。特に注目する点は

森:Chatworkのユーザーは中小企業なので、そこにフィットするかどうかは見ています。エンタープライズにしか通用しない、スタートアップしか使えないサービスだと難しいかもしれません。

──財務指標や数値指標で見ている点は

森:継続率は大事だと思います。離脱率が低いといいサービスだろうなと思いますし、LTVをしっかり取れているか注目していますね。

経理・労務系サービスは競合も多いですが、先行者がいる場合の考え方は

森:大企業向けは別ですが、経理代行事業でいえば、中小企業向けでグロースできているところはあまりないと考えています。あるとすれば税理士法人がやっている記帳代行でしょうか。

──投資対象をシリーズA以降としている背景は

森:スーパーアプリファンドは事業シナジーを目的としているので、投資先とは業務提携を結びます。その後、(営業支援の一環として)Chatworkユーザー約43万社にサービスを案内していきます。

 そのとき、プロダクトの詰めが甘くて使い物にならなかったり、クレーム対応のリソースがないと厳しいかもしれません。PMFが終わっていて、問い合わせ対応が可能な体力があるといいなと思っています。

創業者を見る3つのポイント

──組織を見るとき、注目するポイントは

森:組織というより、代表(創業者)に注目します。

──具体的にはどんな点に注目しますか

森:大きく分けて3点です。まずは明確なビジョンを持っていて、ブレずに経営をしていけること。2点目は事業の解像度です。対峙している市場や顧客について「こういうリスクがありますよね」と話したとき、こちらが腹落ちできるような回答ができるかは重要と思います。

 3点目は実行力です。私の話になりますが、実はこれまで話を聞いてすぐに投資した、というケースがあまりないんですよね。初めて会ってから半年〜1年後、場合にとっては4〜5年後に投資したケースもあります。

 というのも、(久しぶりに)会ったときの“変化率”というか、過去に言ったことを実践しているかも要素の一つだと考えているんです。達成率100%とまではいかなくても、言っていたことをちゃんとやっているかの納得感は大事にしています。

──創業者以外のメンバーを見ることはありますか。例えばITエンジニアの数・質や経理経験者の有無は

森:正直そこまでは見ていません。代表や技術を統括する方の属性は確認しますが、現状で人が足りないところはこれから埋めればいいと考えています。ですので、追加した人員を適切にマネジメントできるか、将来のビジョンが明確かの方が大事だと思います。

 そもそも資金調達で得るキャッシュはオールマイティーなもので、それを使って足りない点を補強するのが資金調達だと思うので、スタートアップに「あれが足りない、これが足りない」といってもしょうがないかなと。資金をどう使うかの方向性がしっかり決まっている方が重要だと思います。

「ユーザーにサービスの良くない点を聞く」 意図は

──逆に、プロダクトのユーザーに話を聞くことは

森:あります。使っているサービスの良くない点を聞きます。

──意図は

森:そもそも悪い点があるのかないのか、あったとしてそれは解決できる課題なのか、そして経営陣はその課題意識を認識していて、解決に向けた計画を組んでいるのかを確認する目的です。経営者がそこを認識していないのが一番危ない。

──他に、投資に後ろ向きになる要素は

森:キーマンがどんどん抜けて行ったり、重要ポジションの入れ替わりが激しかったりすると危ないかもしれません。人が辞めるのは良くない、とは思っておらず、むしろ適切な新陳代謝は必要と考えています。ただ、明らかに同じポジションの人が辞め続けていると、組織的な課題があると感じます。

──いわゆる“SaaSバブルの崩壊”や生成AIの勃興など、現状はスタートアップ業界が大きく動いているところだと思います。一連の動向について、何か思うところがあれば教えてください

森:数年前に比べれば引き締まった環境になってきたなと。一方で“5カ年計画”はじめスタートアップ支援が強化されているので、悪い環境ではないと思います。適切な資金調達ができる状況ではないかと思っています。

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