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あのキャラの声、AIで勝手に再現「無断AIカバー」氾濫 声優と弁護士に聞く「声の守り方」と未来(2/4 ページ)

» 2024年05月10日 16時00分 公開
[岡田有花ITmedia]

 だが、声を法律で守ることは容易ではないとう。知的財産法に詳しい弁護士の田邉幸太郎さんは、「知財法の分野で、声そのものを守ることに特化した法律はない」と話す。

画像 田邉弁護士

 現行法の枠組みの中で声を守れるとすれば、第一選択は「パブリシティ権」になるという。田邉弁護士によるとパブリシティ権は「著名人の氏名や肖像などが持つ“お客さんを引き付ける力”(顧客吸引力)の価値を、独占的に利用する権利」。法律には明記されておらず、判例により認められている権利だ。

 生成AI以前は、“声を守る”ニーズがそもそもなかったこともあり、声に着目してパブリシティ権が争われた国内の事例は「見当たらない」(田邉弁護士)。だが「声についてもパブリシティ権が認められるという考え方が主流」だそうだ。

 例えば、本人そっくりのAI音声を使って「○○さん(有名声優)の声で××の歌を歌ってみた」動画を商品として販売している場合は、有名声優の氏名や声の持つ顧客吸引力を使って収益を得ており、声優のパブリシティ権(と楽曲の著作権)を侵害している、と評価される可能性がある。

「パブリシティ権」の限界

 ただ、パブリシティ権が発動できる条件はかなり限られている、と田邉さんは解説する。

 まず、氏名や肖像、声などがそれぞれ「顧客吸引力」を持っているような著名人でなければならない。そのため、そもそも「人」ではないキャラクターが持つ顧客吸引力にはパブリシティ権が認めらない。

 つまり「声優の○○さんの声」を利用された場合なら守れても、「××というキャラの声」を利用された場合には守ることができない可能性があるということになる。

 ただ「そのキャラクターの声は同じ声優の○○さんが演じている以上、その声優の人格の象徴であると考え、パブリシティ権侵害を認める余地はあるのではないかという見解もある」とも田邉さんは話す。

 一方で、パブリシティ権が発生する対象は「著名である」ことが必要条件。無名の一般人の声には発生しない。

 加えて、パブリシティ権が発動するのは、著名人の声を、(1)独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、(2)商品等の差別化のために商品等に付す場合、(3)商品等の広告として使う場合など、専ら肖像等の持つ顧客吸引力の利用を目的とする場合――に限定されている。

 例えば、無断AIカバーした声優の声にオリジナル脚本を読ませ、収益化せずに公開する場合、(1)〜(3)を満たさないとして、パブリシティ権では守れない可能性が出てくる。無名の一般人の声ならそもそも、守ることができない。

 不正競争防止法の改正で声の権利も守ろうという議論もあるが、パブリシティ権同様、経済的価値が主眼になると考えられ、著名でない人の声も含めて守ることは難しい。

「声の肖像権」目指す動きも

 AIカバーの氾濫を受け、声の権利を幅広く守る新たな法律の制定を目指そうという動きもある。日本俳優連合は、「声の肖像権」確立を目指している。

 肖像権は現状、人の容姿(顔など)について判例で認められている権利だ。「容姿を無断で写真を撮られたり、その写真をみだりに公表・利用されない権利」で、一般人にもある。

 これを拡張し、声についても「みだりに録音されたり、公開・利用されない」などの権利を認めるべきではないか、という議論が起き始めている。

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