“正規の”声優AIでは、森川智之さんが「声優の新たな収益を生み出せる環境の実現を目指す」とし、自らの音声を再現するAIボイスチェンジャー「CoeFont」に声を提供。梶裕貴さんは、本人の歌声データを使った歌声合成ソフト「梵そよぎ」の製品化を目指したプロジェクトを進めている。
「ニャンちゅう」役で知られ、ALS(筋萎縮性側索硬化症)罹患を公表している津久井教生さんは、病気の進行に伴う気管切開で声を失ったが、過去に収録していた自らの声のAI音声を使って発信を続けている。
他にも、声優事務所などが主導して、正規の声優AIを開発しようという動きがあるという。
ツールの主な使い道として考えられるのは「人間の範囲を超えた部分」(福宮さん)だ。例えば、ゲームのキャラクターのセリフが、生成AIでリアルタイムに自動生成できる時代が来ている。
事前にシナリオがある場合は声優が生の声を当てられるが、AI生成のセリフはそうはいかない。そんな時、生成されたセリフに声優AIの声を自動で当てる、といった用途に声優AIが活用できる可能性がある。
声優の若い頃の声のボイスチェンジャーを作り、年齢を重ねても若い頃と同じ声で演技できるようにする、という用途も考えられる。
数十年続く長寿アニメでは、キャラクターは歳を取らない一方で、声優は歳を取り声が変わっていく。だが、初期と同じ声で演技し続けなくてはならず、声のメンテナンスが難しい。そうした課題を、声優AIが解決してくれる可能性がある。
福宮さんも甲斐田さんも、業界で使用ルールを定めた上で、声優本人が合意・協力して作った正規のAIツールは、あっていいと考えている。
「いろいろな声優さんと話をしていると、早く自分のAIを作って、自分ではなくAIに働いてもらいたいと言う人もいる」(甲斐田さん)ほどだ。
ただ、無断AIカバーにより、AIボイスチェンジャー全体のイメージが悪くなると、正規のAIツールの開発・流通を阻害しかねない。甲斐田さんの所属する日本俳優連合には、声優たち以上に、開発元の企業やエンジニアから心配の声が寄せられているという。
正規のAIツールを普及させていくためにも、現行法での声の守り方を検討するとともに、立法を進めていくことや、正規ツール開発時に、声の持ち主とどういう契約を結び、対価をどう戻していくか、またその使用方法や使用範囲に関する業界ガイドラインを策定するのか――議論すべきことは多い。
対価の面では、正規の声優AIで作られた様々な作品やサービスを認定、管理して、利益を還元しやすくする仕組みの検討も始まっているという。
急速に普及し始めた声のAIを、誰もが気持ちよく使いながら、声の主にメリットがある仕組みをどう構築していくか。環境整備を急ピッチで進めるべき時が来ている。
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