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あのキャラの声、AIで勝手に再現「無断AIカバー」氾濫 声優と弁護士に聞く「声の守り方」と未来(3/4 ページ)

» 2024年05月10日 16時00分 公開
[岡田有花ITmedia]

著作権法で守れるか

 著作権法で声を守る方法はあるだろうか。まず、声優やキャラの演技をAIに学習させる段階で、セリフを書いた脚本家(著作者)や、演技をした声優(著作隣接権者)に無断で行うと、著作権侵害に問われる可能性がある。

 日本の著作権法には、著作権者の承諾なしに著作物をAI学習に利用できる例外規定があるが、それは「思想や感情を享受することを目的としない」場合に限られており、「情報解析」が例示されている(30条の4)。

 例えば、特定のキャラや声優の声を再現した上で特定のアニメのセリフを再現するAIカバーを作るため、その特定のアニメのセリフなどを追加学習させるケースは「(アニメのセリフにおける具体的表現そのものを楽しむ)思想や感情の享受目的」が存在することとなり、現行法でも著作者の承諾が必要になる可能性がある。

 ただ、アニメキャラについては、著作者・著作隣接権者がとても多いことが、訴訟を起こすハードルになり得る。

 例えば「ドラゴンボールの悟空」なら、著作者は、漫画作者の鳥山明さんや「週刊少年ジャンプ」刊行元の集英社、アニメ制作の東映アニメーション、著作隣接権者は声優の野沢雅子さんなど。訴えるとして、誰が中心になるのかや、関係者の同意をどう取り付けるかが課題になる。

 「こうした問題を個人で争うのは、心理的・経済的な負担が高く難しいだろう。集団訴訟など手段は存在している。あとは、関係者が意識を高め、団結していく必要もあるのではないか」と、田邉弁護士は言う。

声優間でも割れる意見

画像 福宮さん

 既に多くの声優が、無断AIカバーの氾濫を認識している一方で、危機感が薄い人も多いという。AI音声の質が人間より明らかに劣っていることに加え、「AIに生身の人間が負けるはずがない」という思いが、声優の間にあるためだ。

 声優の福宮あやのさん(NAFCA事務局長)は、「生身の声優の芝居がAIに負けることはないと、私も思う」と同意しつつも、放置は危険だと考えている。

 「AIカバーを聞いて育つ新しい世代は、AI音声で満足してしまい、演技の良さを判断する耳を育てられなくなるかもしれない。野放しにするほど、AI音声が受け入れられる土壌を広げていくことになる。焦った方がいい」

 ただ、声優同士の意思統一も難しい状況だ。AIカバーは明らかな問題だと感じている声優がいる一方で、「ファンによる二次創作のようなもの。グレーゾーンだから触れたくない」という空気もあり、一枚岩になるのは難しいようだ。

 「声優仲間が重い腰を上げてくれない」と、声優の甲斐田裕子さんも言う。無断AIカバーを嫌がっている声優も、「訴訟を起こすような声優だというマイナスイメージがつくのを嫌がる」ためだ。「私には無理だけど、有名声優の○○さんが訴えればいいのに」などと言う人もいるそうだ。

自らAIツールを出す声優も

 無断AIカバーは論外としても、公式のAIツールや音声合成ソフト開発には前向きな声優もいる。目的は、ビジネスや医療・福祉など、人それぞれだ。

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