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世界的に炎上したAppleのCM「Crush!」は、なぜ日本から“クラッシュ”したのか小寺信良のIT大作戦(2/4 ページ)

» 2024年05月16日 12時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

「破壊」という表現の由来

 これらの反応は日本特有のものなのかというと、そういうことでもないようだ。エンタテイメントビジネスを報じる米国メディア「VARIETY」では、8日のお昼過ぎにはすでにあの動画に問題があったと、フィルムクリエイターの見解を報じている。Appleのニュースをメインに扱う「Apple Insider」も同様だ。Tim CookのXアカウントには、多くの嫌悪感を示すコメントが付けられていると指摘している。

 ただ、ポイントはそこではないという層もあるようだ。現在TikTokでは油圧プレス機でモノを潰す動画が流行しており、これをパクったのかといった批判も目立っている。また韓国LGが15年前に発表したKC910の広告との類似性を指摘する声もある。

 かねてAppleはプロモーションにおいて、モノを壊すという表現を取ることが多い。そもそもMacintoshが世に出るきっかけとなった広告は、1984年のスーパーボウルで公開された、リドリー・スコット監督による「1984」だった。

 これはジョージ・オーウェルのSF小説「1984」にインスパイアされたものである。当時の大勢を占めていたIBM PCの象徴ともいえる「ビッグ・ブラザー」が映し出されたスクリーンを若い女性ランナーが破壊して、旧態依然としたコンピュータユーザーを解き放つというストーリーだ。

 1997年にAppleに復帰したスティーブ・ジョブスは、1998年にG3 Powerbookの広告として、WindowsノートPCをロードローラーで押しつぶすという表現を再び用いた。共通するのは、現状のスタンダードを破壊するという表現である。

 イノベーションには、2つのタイプがある。1つは、持続的イノベーションだ。これは以前のものを下敷きにして少しずつ階段を登るように改善・改良を積み重ね、最終的に大きな成果を得るというもので、日本企業が得意とするアプローチである。

 もう一つは、破壊的イノベーションだ。これは既成概念や慣習を打ち破り、一気に新しい価値や基準を打ち立てる方法で、そのやり方は急進的で革新的に見える。

 Appleが得意としてきたのは、言うまでもなく破壊的イノベーションである。その表現方法として、これまでのスタンダードを破壊するというプロモーションは、効果的であった。

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