スタートアップにとっての悩みの種、資金調達。いわゆる“SaaSバブル”が崩れて以降、資金調達難に陥る企業も多く見られる。一方、政府が「スタートアップ5カ年計画」としてスタートアップの支援を掲げるなど、状況は大きく動いている。
資金集めが難しい局面では、当然それだけベンチャーキャピタル(VC)や銀行、投資家とのコミュニケーションの重要性も上がる。しかし、VCや投資家の考え方は広く共有されているものではなく、情報を集めにくい。
そこで、本連載ではVCなどスタートアップ投資に携わる人たちに、出資に当たっての考え方などをインタビュー。事業領域、指標、経営者の人柄……どんな部分に注目しているか聞く。
今回は、メルカリやマネーフォワードやSansanなどに出資してきたGMOインターネットグループ傘下の投資会社・GMO VenturePartnersに取材。同社の村松竜取締役に、投資に当たっての考え方を聞いた。
GMO VenturePartnersは現在、フィンテックに注力して投資している。当初はインターネットサービス全般に出資していたが、VCが世界でも日本でも増えたことから、差別化を目的に、自社グループにも知見があるフィンテックに注目することにしたという。
投資先はアジアや米国の企業。投資ラウンドは問わない。1社あたりの投資額は、初回の場合シードラウンドで1000万〜2000万円程度、それ以上の場合では最大4億5000万円程度という。また、エクイティ(株式発行による資金調達)投資とは別にデット(融資)を行うケースもある。
なお、GMOインターネットグループ傘下にはAIスタートアップなどの支援を手掛けるGMO AI & Web3も存在する。GMO VenturePartnersはGMO AI & Web3と異なる方針で投資をしているものの、投資先を相互に紹介するといった形で連携するケースもあるという。
村松さんは「フィンテックをやっている会社と、フィンテック化していくであろう会社に投資する。そうでないとどんなに面白い会社でも素晴らしい創業者でも投資しない」と話す。同社は対象企業の何を見て投資を決めるのか。
──まずはざっくりと、投資先選定において重視している点を教えてください
村松取締役:まず、フィンテックを扱っているか、フィンテックと相性が良いかですね。そうでないとどんなに面白い会社でも素晴らしい創業者でも投資しない縛りです。
2つ目は、創業者が長く会社を作っていきたいと考えているかどうかを大事にしています。スタートアップは山と谷が大きいので、大変なときに諦めず粘り切れるかが大切です。さまざまな選択をする中で、正解を探すのではなく自分の選択を正解にできる人だけが、長いスパンで大きな会社を作れるだろうと考えています。
──フィンテックといってもさまざまですが、こだわりは
村松取締役:B2BのフィンテックはVCに好まれる傾向があります。世界的にもほとんどの投資がB2Bに向かっており、われわれも同様です。
B2Cは当たると(リターンが)1000倍になることもあるんですが、急に業績が半分になることもあってボラティリティ(価格変動)が激しい。というのも集客をGAFAに依存することになるので、例えばGoogleのガイドライン変更で急にアプリが停止することもありえるんですよね。なので世界中のVCはB2Cを避けるんですが、一方で強烈な成長株は存在するので、われわれも投資自体はしています。ただ、メインはB2Bです。
──粘り強さにこだわる理由を教えてください。これまでの投資経験によるものでしょうか
村松取締役:典型的な例を出すと、われわれの出資先であるCoda Paymentsという、インドネシア発祥のペイメントの会社ですね。ファンドの一般的な満期(運用期間)は10年のところ、この会社はわれわれが投資してもう11年たちます。
実は2年前、われわれは(株式)の持ち分を半分くらい売って、その年のキャピタルゲインランキング1位になったんですが、逆に言うとそこに至るまでに9年かかったんです。われわれもとても時価総額何千億円の会社になるとは思っておらず、投資時点では数百億円程度と予想していました。
しかし、最初の3年を超えてからは成長し、コロナ禍の中でも伸びた。結果、持ち分を半分売るだけで百数十億円のキャピタルゲインが出ました。これは、最初の3年では予想できません。
他の投資家は(投資額の)5〜10倍くらいになったタイミングでだいたい売却していました。それでも十分成功とは思うのですが、その後も事業は伸びました。Coda Paymentsの創業者は現在もチェアマンとして残っていますが、ロングスパンで大きい会社を作ろうという意思があったのでこの結果があったと考えていますし、われわれもそういった人とより長くお付き合いすることが、大きな会社を支援する上で大事だと実感しました。
──創業者を見る際のポイントは
村松取締役:一般的なVCと同様にPMF(プロダクトが市場に適合するか)を見ますが、われわれはそれと同じくらい「ファウンダーマーケットフィット」(創業者が市場に適合するか)を重視し「この人のキャリアがどれくらいこのビジネスに生かせるのか」を確認しています。
──どのように確認を
村松取締役:対面などで会話すると「どれくらい(手掛けている)ビジネスが好きか、解決しようと考えている課題をどれくらい愛しているか」が分かるんですよね。ただ、必ずしもフィンテックやペイメント業界出身である必要はなく、過去にはアドテク出身の創業者が後払い決済サービスを作った人もいました。その方は、面談の最初の3分間で投資を決めました。
──数値指標で注目するポイントは
村松取締役:いわゆるMRR(月間経常収益)やARR(年間経常収益)、T2D3(1年で3倍のARR成長を2年続け、その2倍の成長を3年続けること。SaaSの理想的な成長速度とされる)を達成できそうかどうかは当然見ていますが、その時点の数字だけだと分からない点もあるので、先ほどお話ししたように創業者を確認しています。
──経験則による部分も大きいと思うのですが、創業者を見るときはどんなポイントをチェックしているのでしょうか
村松取締役:すごく分かりやすい点だと、共同創業者や“No.2”がいるかどうかですね。20年にわたって200社くらい投資してきた経験ですが、No.2がいる人の方が長く成功し続ける傾向があります。
この話をすると「じゃあイーロン・マスクはどうなんだ」とよく言われるのですが、もちろん外れ値というか、超天才もいます。一方でAppleもMicrosoftもホンダもソニーもだいたいNo.2がいるんですね。
その理由を考えると、No.2は“社員が相談しやすい存在”だからだと思っています。社員数が100人1000人と増えると、社長はどうしても現場との距離が空いてくる。No.2の存在は意思決定の質に大きく影響すると考えています。
No.2は(創業者にとっても)相談できる存在です。創業者は孤独で、皆さん「相談できる人がいない」と仰います。もちろん、私も創業者から相談を受けることもありますが、それは投資家としての相談になる。内部で相談しようと思うと、No.2のような立ち位置の人になると思います。
そして、10人の時点でNo.2がいない経営者は、100人になっても(No.2)がいないことが多い。逆に10人のときにNo.2がいる人は、100人になってもいる傾向があるので、(最初の段階でNo.2がいるかどうかは)重視しています。マネーフォワードやChatworkもNo.2がいました。
──リーダー層ではなく現場の充実度などはいかがでしょうか。ITエンジニアやフィンテック経験者層の厚みなどは
村松取締役:自社のエンジニアを連れて(スタートアップの)CTOと面談することもあります。その際、CTOが現場のエンジニアに話を振ることもありますが、そのときうちのエンジニアが「すごい人がいるな」と驚いていると、センスを感じますね。フィンテックは特に技術力が重要で、営業力だけで伸びる分野でもないので。
──GMOインターネットグループでは計算資源の強化や生成AIツールの導入など、AI関連の施策を強化している印象です。この方針が投資に影響することはあるのでしょうか
村松取締役:AIそのもので勝てる会社、それこそOpenAI並みのものを作れる会社は世界で数社しか出てこず、過酷な投資競争になると思っています。ですので、業務理解が深く、AIで生産性をものすごく高められる会社こそ、われわれが狙うべき会社だと考えています。
──具体的にはどのような
村松取締役:フィンテックに注力する以前に投資した米国の会社に、放射線科医向けに、AIで(画像診断の)書類作成を効率化する会社があります。(当時から)放射線科医は全米で不足しており、1日に200〜300人のレントゲンを見なくてはいけない状況でした。
当時はいわゆる生成AIがない中でサービスを提供していましたが、最近生成AIを導入し、いま大きく伸びています。創業者は放射線科医で、レントゲンにめちゃくちゃ詳しい。そういう人が生成AIを使うと“爆裂”するんです。同様の会社が今後、さまざまな分野で登場すると思うので、そういうところを狙っています。
ただ、フィンテックは生成AIとまだあまりつながっていないというか、フィンテックにめちゃくちゃ特化した生成AIというのがまだ出てきていません。コールセンターを無人化するといったサポートはできますが、これは他の分野でもできることです。
──いわゆる“SaaSバブルの崩壊”や生成AIの勃興など、現状はスタートアップ業界が大きく動いているところだと思います。一連の動向について、何か思うところがあれば教えてください
村松取締役:VCもスタートアップも、8〜10年サイクルで(調子が)上がり下がりしていて、今は“冬”のサイクルです。ただ、冬は絶好の起業・投資機会なんですよね。“夏”はみんな資金調達できるんですが、一方で競争相手も多く、結局赤字覚悟の勝負になっていくので、誰ももうからない。
逆に冬はお金が集まらない分、健全な環境の中で競争し、利益を出せるので、一見不利に見えるけどいい時期だと思います。国もユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場企業)を100社生み出すという話をしていますが、それも候補が増えてなんぼなので、もっともっと起業をしやすくするのが重要と思います。
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