「僕は会社に全力投球だったので、何か問題が起きてもうまく両立しようと考えるんです。今までも気合いでなんとかしてきたわけで、自分のことだけなら気合いで乗り越えられる。でも健康とか家族の問題になるとそうはいかない。僕の学びとしては、そうなったらもう出力を最小限にした方がいいということでした」
スタートアップ経営者が、自らの過去の失敗を語る本企画。2021年12月に東証マザーズ上場を果たしたFinatextホールディングス(HD)の林良太CEOが話したのは、こんな意外な失敗についてだった。
事業も軌道に乗りつつあった19年春、林CEOは配偶者の深刻な「産後うつ」に直面したという。出産後、配偶者は1週間近く眠れない状態が続き、「さすがにおかしい」と思った2人は心療内科を受診。「産後うつ」の診断を受けた。そこから、9カ月間に及ぶ林CEOと配偶者の闘病生活が始まった。
家族3人で東京に戻り、投薬治療を始めたものの、配偶者の睡眠時間は平均2〜3時間。突然不安が襲い、過呼吸になってしまうこともあったという。林CEOは、配偶者の悲観的な発言に胸を痛めながらも、仕事と看護の両立を試みた。
ただし家庭がいかに大変でも、それを仕事に持ち込まないというのが林CEOの美学だった。
「当時は伊藤(CFOの伊藤祐一郎氏)にも言ってなかったんですよね。伊藤だけじゃなくて、僕なりに、かっこいい社長でいたいというか、弱い自分を見せたくないという思いがあったんです」
13年創業のFinatextHDは、林CEOがドイツ銀行、ヘッジファンドなどのプロの金融の世界を経て創業したフィンテック企業だ。「金融をサービスとして再発明する」というミッションを掲げ、クレディセゾン、セブン銀行、ニッセイアセットマネジメントなど19社に証券や保険の裏側の基幹システムを提供している。
21年に上場を果たした現在でこそ、組織を整備して権限委譲も進めているが、もともと社長は全ての仕事を自分で把握し、率先して行うべきだというのが林CEOの考えだった。
「特に会社が小さい時はそれが当たり前。連続起業家とかで、すごく資金が集まっているとかなら別ですけど。社長たるもの、自ら率先して働くことが大事で、そのぐらいの働きっぷりを見せないと。最初はそれが絶対的に正しいアプローチだと思っています」
こうした林CEOの社長像の在り方は、結果的にプライベートのピンチを社員に共有するタイミングを遅らせたという。自分の体調面のことを社内にあまり明かさずに、なんとか仕事と家庭を両立しようとしていたのだ。
「いつも『明るくあれが社長たる者の姿だ』と言ってるのに、自分がめちゃくちゃ暗いとか弱音を吐くのはダサいなと思って。それを理由に逃げたみたいに思われたくなかった」
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